ホストクラブの営業許可に追加された3つの要件
――「違法な色恋営業の禁止」に抑止効果が期待できるようにも思いますが。
どうでしょう。「色恋営業の禁止」よりも「欠格事由(人的要件)」の範囲の拡大に注目している関係者のほうが多い印象です。
――欠格事由とは何ですか。
営業許可が下りない人の要件です。これまでは、次のようなものでした。
・未成年者。
・破産手続開始の決定を受けて復権を得ないもの。
・1年以上の懲役刑や風営法違反などの特定の犯罪での刑罰から5年を経過していない者。
・暴力団の構成員。
・風営法の許可取り消しから、5年を経過していない者。
今回は、既存の要件にさらに3つが追加されたのですが、ホスト業界は「親会社、子会社、兄弟会社などが許可を取り消された法人」という内容の条文に震撼しました。一般的に親会社というのは、2つ以上の法人が支配従属関係にある場合の「支配的な法人」を指します。
そして、親会社に従属する法人は子会社と呼ばれますが、この親子の関係は「子会社の株の過半数を持っていること」や「親会社の役員が、子会社の取締役会の過半数を占める」など、外形的な基準として示されることが一般的です。
――そうなると、ホストクラブの「グループ」は「親子会社」には当たらないんじゃないですか。風営法の1号許可は店舗ごとに取得しなければなりませんし、いわゆる「ホスト・グループ」は、各店のエース格のホストがまだ半人前だった時代に働いていた特定の店を中心にした一種の「友達軍団」でしょう。店舗間でお金のやりとりが生じていないケースも少なくないはず。
ですから、今回の改正案では「親子会社」の定義を曖昧にして、「実質的に支配」とか「事業に重要な影響を与える関係」といった抽象的な表現が用いられています。これによって、一般的には親子会社と見做されない「ホスト・グループ」が軒並み1号許可を失ってしまう可能性が生じました。
詳細については国家公安委員会規則で定められることになっており、11月28日の施行までには公表されます。業界は固唾を呑んで注視している状況ですね。
ナイトビジネス規制への抵抗
――資本関係がなくても、警察や行政に「支配関係がある」と見做されたら、違反した店舗が1号許可を失うだけでなく、友好的な関係にあった別の店舗も1号許可を取り上げられてしまうということですか。
こうした「ホスト・グループ」では、ひとつの店が許可を失ったとき、その店舗で働いていた――違反行為を行なっていない――ホストやスタッフに対して、グループ内の別の店舗が一時的に働く場を提供する、セーフティネットの側面もあります。
そうした集団まで、問答無用で「連帯責任」として1号許可を失うとなれば、これはナイトビジネスおけるホストクラブという夜の文化の絶滅につながりかねません。
――著書『歌舞伎町弁護士』は、不思議な読後感を味わわせてくれる一冊でした。若林さんはある場面ではナイトビジネスの不正を追及し、ある場面ではローカルな流儀を尊重しようとする。先生は結局、ナイトビジネスを守りたいのですか、それとも潰したいのですか?
私は、人間にとって、何より大切なのは「自由」だと信じています。ですから「何でもかんでも規制する」という政治的風潮には抗っていきたい。もちろん、不当に権利を侵害される人を守るための規制は必要ですが、基本は「自由」で、規制は「最小限」であるべきでしょう。正しいか、間違っているかという以前に、そのほうが人間らしくいられると思うのです。
取材・文/山田傘