「エリートの子をたくさん殺せば、死刑になると思った」

 この事件では、犯人が統合失調症を装っていたことが後に明らかになりました。大阪地裁が依頼した精神鑑定でも精神疾患が明確に否定されたのです。

裁判長に「犯罪史上類を見ない凶悪犯罪」と言わしめた犯人は、宅間守(事件当時37歳)。「エリートでインテリの子をたくさん殺せば、確実に死刑になると思った」と、犯行動機を語りました。そして事件から2年後の2003年8月、大阪地裁で死刑判決が言い渡されました。即座に弁護人が控訴しましたが、宅間自身がそれを取り下げ死刑が確定しました。

この事件のあと、池田小学校の子どもたちの精神状態が心配されました。当然、学校も保護者も子どもたちのメンタルケアには非常に神経質になっていました。子どもや保護者への取材は、厳しく制限していたと記憶しています。

ニュース映像に携わる私たちも子どもたちの顔を出さないように細心の注意を払い編集していました。ですので、子ども、保護者のインタビューや登校風景などは常に顔から下の部分を撮影した映像のみです。

当時、編集者であった私は、撮影された取材テープの中にある子どもたちへのインタビューが、本当に使用して大丈夫な映像なのかを常に確認するように心がけていました。子どもたちにその判断はできませんから、のちに「許可もなく子どもたちを撮影した」と学校や保護者側とトラブルになるのを避けるためです。

それにしても、連日放送される映像は子どもたちの足元だけ。広いサイズの映像でも顔部分にはモザイク…と、私たちの作っている映像に子どもの顔は一切、出てきません。

「犯罪史上類を見ない凶悪犯罪」附属池田小事件から24年… 8人の児童を殺害し、自ら死刑を望んだ宅間守、判決確定からわずか1年後の”異例の執行”_2

事件からしばらくのち、当時ヴィッセル神戸にいた三浦知良選手などJリーグのプロサッカー選手らが、子どもたちの心のケアの一環として学校を訪問し、子どもたちと一緒にサッカーをするというイベントがありました。

そのときのニュースでは、笑顔のサッカー選手の周辺に顔にモザイク加工をした大勢の子どもたち。子どもたちの楽しい歓声は響き渡っているのに顔だけは見えないという映像でした。大事件が起こるとこの「顔の見えない編集」をよくするのですが、いつも異様な感覚を覚えます。

また、撮影してきた映像には、放送を憚られるような凄惨な映像もあります。この池田小の事件でも、警察の現場検証が終わったあとに許された取材では、血まみれになった教室が撮影されていました。

これは事件の悲惨さを伝えるために当初は使用しましたが、私は早い段階で使うのを止めました。遺族や被害者、関係者らがその映像を見ることによって、事件をフラッシュバックしないようにとの配慮です。後輩の編集者には、一般の視聴者も大事だが、ご遺族の方の目線を基準に考えることも忘れてはならないと伝えてきました。

この事件では、編集者の中でも精神的に不安定になる人が出てきました。子どもを狙った無差別の大量殺人事件です。特に同じ年頃の子どもを持つ編集者からすれば、冷静な気持ちで繋ぎ続けられるものではありません。

「もうこのネタは無理です」と言った後輩もいて、その人には当分、これとは真逆の平和なネタを担当してもらうようにしました。本当につくづく過酷な仕事だと思います。

それでも誰かが画を見て判断しないといけません。私もやりきれない気持ちはありましたが、この事件を伝えることの重要性を考え続けたことで、なんとか自分を保てたのではないかと思っています。