「65歳にもなれば、国から何らかの恩恵を受けてもおかしくない」
「65歳から無料」が始まったのは1984年。当時はソウルの地下鉄の路線も今よりはるかに少なかった。軍事政権下で、当時の全斗煥大統領が高齢層にアピールして支持を得ようとしたとの見方もある。
以来、40年の歳月が過ぎた。当時は4%ほどだった韓国の高齢化率は20%に迫りつつある。68歳ほどだった平均寿命も82歳を超えた。
こうしたなかで、ソウル市の呉世勲市長が23年1月から2月にかけてSNSに相次いで投稿し、無料の対象になる乗客が増えて財政負担が重くなっていると訴えた。ソウル市に取材したところ、議論を重ね、当面は制度を続けることにしたが、コストについて国に支援を求めていくとも説明した。
一方、南東部の大邱市は無料乗車の開始年齢を28年まで段階的に70歳まで引き上げることにした。市は「年齢引き上げの議論は全国的にも必要だと思われる」と取材に答えた。
韓国の高齢化率は今後も高まっていく見通し。65歳以上を無料にし続ければ、50年には対象者は10人中4人となりそうだ。見直しが必要だという意見は少なくない。世論調査機関ギャラップの23年2月の調査では、無料乗車など「敬老優待」の対象を「70歳」以上にすることに賛成が60%で、反対は34%だった。15年10月の同様の調査では賛成46%、反対47%だったので、だいぶ状況が変わってきている。
ただ反発もある。ソウル東部に住む男性(74)は「65歳にもなれば、国から何らかの恩恵を受けてもおかしくない」と言っていた。「無料だから、今日も友達に会いに来られたんだ」
見直し論に強く異議を唱えていたのが、高齢者団体「大韓老人会」会長だった金浩一さん。国会議員を3期務めた金さんは討論会で「高齢者が地下鉄で(韓国中部の)天安まで行き、スンデ(豚の腸詰め)とともに焼酎を一杯。そんな幸せをなぜ奪うのか」と訴える様子が、韓国メディアで報じられていた。