「65歳から地下鉄無料」は見直すべき?
2023年に、記者はかねて関心のあった、韓国の地下鉄と高齢者をめぐる話題を取材した。少子高齢化という大きな変化がいや応なく社会を揺り動かすなかで、65歳から地下鉄無料といった高齢者を優遇する制度をそのまま続けていくべきか、論争になっていた。
ソウルの中心部にある公園には連日、市内や近郊から高齢者が集まってくる。ベンチに座って知人らと談笑したり、1人で景色を眺めたりして思い思いに過ごす人が多い。
ソウル北部に暮らす男性(78)もそうした一人で、週に数回、地下鉄に乗って公園に来る。「特に知り合いがいるというわけじゃないけどね。ここで過ごし、また帰るんだよ」多くの高齢者が気軽に訪れる大きな理由は、地下鉄に無料で乗れるからだ。
老人福祉法には、こんな趣旨が定められている。「国または地方自治体は、65歳以上の者に対し、輸送施設などを無料または料金を割引して利用させることができる」。ソウルに限らず、高齢者にいわば「移動する権利」を保障するような形で地下鉄の無料制度は定着してきた。
前述したが、この無料という「恩恵」を生かしたビジネスが「地下鉄宅配」のサービスだ。「シルバークイック」は01年に設立された地下鉄宅配の「老舗」と言える。23年にソウルの街中の事務所を訪ねると、社長の裵基根さんが忙しく働いていた。「品物は何ですか」「配達先は?」。スマホを手に次々と注文を受け、文字メッセージで配達員に行き先を指示している。配達員は約30人いて、大半は70歳以上だとのことだった。
事務所の待機場所に、7年ほど働く男性(80)がいた。年金だけでは生活できず、週に4〜5日の出勤で多いと月40万〜50万ウォン(約4万〜5万円)程度の収入になる宅配が頼みだそうだ。「65歳から無料は早いという話を理解はできるけど、地下鉄に乗るたびにお金を払うならこの仕事は出来ないよ」と話していた。