「最も消滅する危険が高い」に区分する自治体の支援策

郡はなぜこうした施設を設けたのだろうか。

義城郡は、約5万人が暮らすのどかな農村地域だ。だが1960年代半ばに20万人を超えていた人口は、産業化とともに流出が続き、今や4分の1以下にまで減った。高齢化率も45%ほどに達し、韓国で「最も消滅する危険が高い」というランクに区分される自治体の一つになっている。

郡のトップである金周秀郡守がインタビューに応じた。

金郡守は「地域が活性化し、未来に向けて発展していくためには若い世代を呼び込み、流出を防ぐことが重要です」と危機感を率直に語った。郡は起業支援や公共住宅の建設など、若い世代の移住誘致に積極的なことで知られる。国などの補助も活用して、出産や子育てへの支援策の充実も図っている。出生率は22年に1・46で、全国でも4位と高かった。

出産や育児を支える「出産統合支援センター」にも取材に向かった。

まだ真新しいこのセンターは19年に開設しており、ベビーカーやおもちゃの貸し出し、育児相談なども行っている。

案内された2階の部屋に入ると、貸し出し用の育児用品でびっしり埋まっていた。担当者によると、おもちゃは毎年、親の希望を聞き取って購入している。貸し出しも無料だ。「子育て支援を充実させることは、若い世代に移り住みたいと思ってもらう環境づくりにつながります。仕事や住居も含めた総合的な支援が重要になります」と金郡守。

「子育て支援」の充実はいま、韓国の自治体が競う施策の一つだ。ソウル近郊の仁川市が23年末に打ち出した、「1億ウォン(約1100万円)」の子育て支援策も話題を呼んだ。仁川市は韓国の「空の玄関口」となる国際空港を抱え、人口は約300万人に達する都市だ。ただ、出生率は23年に0.69で全国平均を下回っている。

韓国の仁川にある小学校の教室で学ぶ子供たち
韓国の仁川にある小学校の教室で学ぶ子供たち

「仁川型の政策大転換の始まり」などと称した支援策は、市内で生まれた子どもは市内で暮らす限り、18歳まで計1億ウォンを支給するという内容だった。

これまでの児童手当や保育料支援などに加えて、教育費がかさむ8歳以降も市が独自に1980万ウォンの手当を上乗せするなどしたものだ。

1億ウォン、というわかりやすく、少なくない額で、インパクトもある。だが、子ども1人を育てるのに実際はその数倍かかる、とも言われる現状をふまえれば、それだけで子どもを産もうと思うだろうか。そんな疑問を、市庁で取材に応じてくれた柴賢晶・女性家族局長に問うてみた。

柴さんはうなずき、こう続けた。

「結婚しない若い世代には、子どもを産んだらお金がたくさんかかる、自分の給料ではだめだ、という認識が刻まれています。(そうした認識を)少しでも解消しつつ、子育てを自治体が責任を持って支える、という姿勢を肌で感じてもらうようにしたいんです」

加えて、より根本的な「構造」に対する取り組みが重要とも柴さんは強調した。支援額を増やすだけで終わりということではなく、若い世代向けの住宅の供給や雇用対策なども力を入れる方針だという。ただ、簡単ではない。