人類の総収入の約10倍のカネがウォール街やシティのルーレットにのっていた狂騒…「リーマンショック」の大破綻は必然だったと言える理由
2008年にアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したことをきっかけに、世界を襲ったグローバル金融危機。実はその伏線は、はるか以前から張り巡らされていた――。
このように主張するのはギリシャの元財務大臣で経済学者のヤニス・バルファキス氏だ。一体どういうことなのだろうか。いま話題の書籍『テクノ封建制』より一部を抜粋、再編集して紹介する。
テクノ封建制 #5
なぜ誰も狂騒を止められなかったのか?
ここで疑問に思う人がいるかもしれない。ウォール街で警鐘を鳴らす賢い人間は、ひとりもいなかったのかってね。もちろんそういう人はいた。だが、その警鐘は掻き消されていった。
毎月毎月、ジルやジャックたちは莫大な利益を手に入れた。彼らに異を唱えたトレーダーは、愚痴っぽい負け犬として敬遠された。デリバティブの複雑さを理解していない経営者は、自分たちの金庫をカネであふれさせてくれるデリバティブに気をよくして、反対意見を封じた。
反対者は選択を迫られた。やめるか(実際にやめた人もいた)、それともこうしたレバレッジ稼業の仲間に入るか。レバレッジというのは、莫大な負債を元手にとんでもない賭けに出ることをオブラートでくるんだテクニカル・タームだ。
彼らはまるで自宅の居間にATMがあるのを見つけたようなものだった。市場が好調な限り、銀行口座に預金がなくてもATMから無限の現金を引き出せる。先のことなど気にせず、カネを借りるだけでいい。
そんなわけで、2007年までには人類の総収入のおよそ10倍にものぼる資金が、ウォール街やロンドンのシティのルーレットに賭けられていた。
これから予想されうる破局的な未来とは……
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この新たな金ピカ時代において、テクノストラクチャーは最も優秀な人材を惹きつけることができなくなった。最高学府の物理学博士や、世界一優秀な数学者や、芸術家や歴史家でさえ、ウォール街に群れをなして集まった。
フォードやヒルトンから、ゴールドマン・サックスやベア・スターンズやリーマンへと力は移行した。テクノストラクチャーの大部分はウォール街の仲間入りをすることで、その推移に順応した。
この金融化バブルが崩壊したあとの2009年、倒産したゼネラルモーターズの監査に入った監査人は、自動車やトラックの製造で名をなした有名企業が、オプション売買を行うヘッジファンドと化していることを発見した。自動車製造は名目を取りつくろうためのお飾りになっていたのだった。
#1 はこちら
文/ヤニス・バルファキス 写真/shutterstock
テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。
ヤニス・バルファキス、斎藤幸平、関 美和
2025/2/26
1,980円(税込)
320ページ
ISBN: 978-4087370089
《各界から絶賛の声、続々!》
世界はGAFAMの食い物にされる。
これは21世紀の『資本論』だ。
――斎藤幸平氏(経済思想家・東京大学准教授)
テクノロジーの発展がもたらす身分制社会。
その恐ろしさを教えてくれる名著。
――佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)
これは冗談でも比喩でもない!
資本主義はすでに死に、私たちは皆、農奴になっていた!
――大澤真幸氏(社会学者)
私たちがプレイしている「世界ゲーム」の仕組みを、
これほど明快に説明している本はない。
――山口周氏(独立研究者・著作家)
資本主義はすでに終焉を迎え、グーグルやアップルなどの巨大テック企業が人々を支配する「テクノ封建制」が始まっている!テック企業はデジタル空間の「領主」となり、「農奴」と化した私たちユーザーから「レント(地代・使用料)」を搾り取っているのだ。このあまりにも不公平なシステムを打ち破る鍵はどこにあるのか?
異端の経済学者が社会の変質を看破した、世界的大ベストセラー。
目次
第一章 ヘシオドスのぼやき
第二章 資本主義のメタモルフォーゼ
第三章 クラウド資本
第四章 クラウド領主の登場と利潤の終焉
第五章 ひとことで言い表すと?
第六章 新たな冷戦――テクノ封建制のグローバルなインパクト
第七章 テクノ封建制からの脱却
解説 日本はデジタル植民地になる(斎藤幸平)