テレビでは11時以降が「大人の時間」とされていた

昭和の時代、小学生らは夜10時位になると、親に「さあ、もう寝なさい」といわれ、テレビをみさせてもらえないのが普通だった。特に11時頃になるとテレビのある茶の間には絶対に入れず、子供は起きているだけでも怒られたりした。

筆者も、この時間にどんな番組をやっているのか疑問に思って新聞のテレビ欄をみると、『11PM』(1965〈昭和40〉年~1990〈平成2〉年:日本テレビ)とか出ているだけでやはりよく分からず、「『じゅういちぴーえむ』って何だ?」などと考えていただけだった。

ただ、その時間そっと襖を開けて覗くと、「シャバダバシャバダバ……」という怪しげな音楽が流れていて、父親が裸の女性の映像をみたりしていたので、「ははあ、なるほど」と思ったこともあった。

なお、『11PM』は、最初割合硬派の番組であったが、数年経つうちには段々とお色気系中心の内容へと変わっている。

そして、やがてはこれに続く形で、『23時ショー』(1971〈昭和46〉年~1973〈昭和48〉年、1977〈昭和52〉年~1979〈昭和54〉年:テレビ朝日)、『独占!男の時間』(1975〈昭和50〉年~1977〈昭和52〉年:テレビ東京)、『トゥナイト』(1980〈昭和55〉年~1994〈平成6〉年、『トゥナイト2』は1994〈平成6〉年~2002〈平成14〉年:テレビ朝日系列)、『サタデーナイトショー』(1981〈昭和56〉年~1984〈昭和59〉年:テレビ東京)などが放送されるようになり、深夜時間帯の民放はみなアダルト向けの番組だらけとなっていった。

昭和はテレビの番組制作にとってもおおらかな時代だった
昭和はテレビの番組制作にとってもおおらかな時代だった
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一番ひどかったのは、昭和末期~平成ひとケタ頃で、某有名過激コーナーがあったことで知られる『TV海賊チャンネル』(1984〈昭和59〉年~1986〈昭和61〉年:日本テレビ系列)や、アイドルにバスタオル1枚で歌わせたりしていた『花の女子高聖カトレア学園』(1985〈昭和60〉年:テレビ東京)。

全裸が当たり前の『姫TV』(1988〈昭和63〉年~1993〈平成5〉年:テレビ朝日)、『EXテレビ』(1990〈平成2〉年~1994〈平成6〉年:日本テレビ系列)、『平成女学園』(1992〈平成4〉年~1998〈平成10〉年:テレビ東京)、AV女優の上半身を映しながら「今、股間がハケの水車で刺激されているのは誰か」を当てるクイズコーナーなどがあった『殿様のフェロモン』(1993〈平成5〉年~1994〈平成6〉年:フジテレビ)。

『ギルガメッシュないと』(1991〈平成3〉年~1998〈平成10〉年:テレビ東京)、『ロバの耳そうじ』(1994〈平成6〉年~1996〈平成8〉年:日本テレビ系列)、『A女E女』(1997〈平成9〉年~1998〈平成10〉年:フジテレビ)など、深夜は低俗どころではない超おげれつ番組のオンパレードであった。

しかし、2000年代に入るとこうした番組への風当たりや規制が強まり、過激番組は次々と姿を消していった。今の子供たちはもうテレビにもあまり関心を示さないし、夜ふかししているとしてもゲームに夢中になっているかスマホをいじったりしているだけである。

かつてイケナイ時間帯が存在したことなど知る由もないだろうし、中年以降の大人たちにとっても、もはやこれらはギラギラ若さが溢れていた時代の記憶であろう。

文/葛城明彦

『不適切な昭和』(中央公論新社)
葛城明彦
『不適切な昭和』(中央公論新社)
2025年5月9日
990円(税込)
232ページ
ISBN: 978-4121508416

いまとなってはありえない!
これが令和の日本とは同じ国とは信じられない事実の連続。なつかしくもおかしい昭和の時代の景色を今によみがえらせる。コンプラ意識ゼロの怒濤の常識、非常識。


第1章 社会――暗くて汚かった街
第2章 学校――カオスな、もうひとつの小社会
第3章 家庭と職場――のん気なようで意外と地獄
第4章 交通――ルール無用の世界
第5章 女性――差別もセクハラも放ったらかしだった頃
第6章 メディアと芸能界――規制ユルユル、何でもやり放題

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