「ダメなときほど、動きながら策を考えなきゃ」

昨年の夏くらいまでは会社の存続すら危うい、身体が震えるような日々を過ごしたと回顧する。

「心が折れそうな瞬間もたくさんあって、金銭的にも対人的部分でも、すごいストレスでした。でも、同時にメンタル勝負だとも思いました。どんなにめちゃくちゃ苦しいときがあっても、それはずっとは続かない。そして、それと同等のいいときが必ず来る。

格闘技をやってきて、散々それを経験してきましたから。でも、止まっていたら死ぬだけ。ただ立ち止まって我慢するのではなく、頭と身体を動かす。常に次の一手を考えて足掻いてきたことが立て直しの鍵だったと思います」

卜部弘嵩 (撮影/廣瀬靖士)
卜部弘嵩 (撮影/廣瀬靖士)

当時は社員30人に加え、パートやアルバイト、派遣社員の約140人が常時稼働していたが、外部に任せられるところは任せるなど、業態や固定費を見直し、コンパクト化をはかった。

「現在の社員数は少数精鋭で10人。一人ひとりが高い専門性を持っていて、直近の売上は約7億円です。

拠点も千葉エリアに集約し、丁寧かつ安定的に運営するスタイルへと転換しています。昨年までは僕も倉庫で入出荷作業をしていましたが、今年から外れました。

現在はドライバー出身で倉庫業の知見もある父に社長業をバトンタッチしました。僕は代表取締役を退任していますが、経営・現場戦略・商談などには深く関わっていて、今は毎朝5時に起きて、午前中は契約書のチェックや日次の確認、会計士や税理士・社労士などとの打ち合わせ、午後は商談や営業ですね」

商談において、元世界チャンピオンの経歴はやはり威力を発揮する。

「なかなかメーカーへの直の商談って難しかったりするんですけど。格闘家として認知されている信用はあるので、話を聞いてもらいやすかったと思います。格闘技の話がアイスブレイクになったりするんですよね」

過去の経歴も存分に活かしながら365日働いていると話す卜部。そんな彼は、物流業界の深刻な人手不足の解消にも意欲を燃やしている。

「現状、人手不足で困っている会社は多いと思います。作業員もドライバーも足りていない。これまで日本の物流を支えてきた世代から、若い世代が学び、引き継いでいくタイミングでもあると思うんです。

“ウチの会社を引き継いでもらえないか?”というお話をいただくことも何度かあって。今まではお断りしていたんですが、そんなふうに困っている会社がたくさんあるなら、一緒に協力体制を作って、その人たちの生活もしっかり保障しながら業務を広げていけないかと今は考えてます。同業他社とも協力体制を築く必要があると思うんです。

これからは倉庫業だけでなく、運輸業も本格稼働していきたい。そのために運送会社との資産提携も進めています。あわせて、物流業に特化した人材派遣業も力を入れたい。あとは、労務や法務などに疎い会社も少なくないので、そのバックオフィスを専門的に担う会社も今後作れたらと計画しています」