「“直接セリフにしないと心情が理解できない問題”はない」

昼ドラ人気が花盛りだった頃、SNSで感想が可視化・共有されるテレビの楽しみ方はなく、抗議の手段も電話や手紙だけ。ネットで炎上する、ネットで盛り上がりを見せるということもなかった。

「SNSは朝ドラと昼ドラ対照的な道を辿ることになった背景のひとつでしょうね。『あまちゃん』は東日本大震災以降にSNSが幅広い世代へ普及し、Twitter(現X)で感想が共有されることで盛り上がりを見せていたと思います」

その後、不倫恋愛や愛憎劇を題材にしたフィクションのニーズはWeb漫画などにシフト。そのドラマ化などによって、昼ドラ的要素は深夜ドラマに引き継がれている。

「昼ドラに比べれば、深夜ドラマもだいぶ“手心”を加えられている印象ですが、結局、不倫モノが人気です。朝ドラでは『カーネーション』(2011年)でヒロインの不倫が描かれ、そのエピソードを絶賛する視聴者もいた一方で、抗議を寄せる視聴者もいたため、以降、不倫的な描写は控えめになっています。

『花子とアン』(2014年)では、史実だとヒロインのモデルは既婚男性と恋するのですが、ドラマでは奥さんの死後、再婚するという修正がされているほどです」

朝ドラの視聴者が朝ドラに求める倫理観は確かに存在するが、時間帯が変われば一概に許される時代でもない。記憶に新しいところでは『子宮恋愛』(日本テレビ)がSNS上で物議を醸した。夫とは別の男性に子宮が恋をしてしまう本作だが、同僚男性からヒロインへのセリフ「ねぇその主人ってのやめたら」は、“しきゅれん構文”としてミーム化もした(原作にはないセリフとのこと)。

「朝ドラ『半分、青い。』ではヒロイン(永野芽郁)が離婚を切り出した夫に『死んでくれ』と言うセリフがあり、SNSではいかがなものかという声がありました。あれから6年ほど経ち、『夫よ、死んでくれないか』(テレビ東京)なる深夜ドラマのタイトルが問題視されましたが、そうした倫理観は民放にも例外なく求められる時代です。誰かに『死ね』と言うのはよくないのは当たり前ですけれど」

『夫よ、死んでくれないか』(番組公式インスタグラムより)
『夫よ、死んでくれないか』(番組公式インスタグラムより)

なお、一部の昼ドラ作品はU-NEXTなどで現在配信されている。音楽はサブスクで往年の名曲が世代を超えて聴かれるリバイバル現象も起きてきたが、昼ドラはタイパの壁を超えられるのか?

テレビドラマ自体は話題作も定期的に生まれているが、そもそもの人口比的な問題もあるのか、若者がそれらの人気の牽引役になってきた印象は正直ない。

「身も蓋もないですが、“テレビっ子”と呼ばれるようなテレビを見て育った、昔からの視聴者が今もテレビドラマを追い続けているのが現実かなと(笑)。仮に昔の昼ドラにハマる若者がいるとすれば、昼ドラはビジュアルのおもしろさや過激さといった瞬間的なインパクト勝負という点が最もユニークなところ。1話の中で変な出来事が次々と起きて話が転がっていくため、タイパを求める今の時代にわりと合ってはいるかもしれませんね」

筆者には1話15分という負担感のなさも朝ドラ視聴の一助となった。昼ドラもテレビアニメと同じ1話約30分であることも考えれば、若年層での“人気再燃”の可能性はあるかもしれない。

「昼ドラは過激な題材のわりに気軽に楽しめるところがありますし、“直接セリフにしないと心情が理解できない問題”もないですから(笑)。誰だって“たわしコロッケ”を見れば怒りのヤバさはわかりますよ」

さまざまなルールに縛られながら、ストレスやトラブルを抱えて働く現代人。コンプライアンスを意識する一方で、どこか昼ドラのような刺激的なものを求めているのかもしれない。

ネットでミーム化もした『子宮恋愛』(番組公式HPより)
ネットでミーム化もした『子宮恋愛』(番組公式HPより)
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取材・文/伊藤綾