昼ドラの究極形のような作品『牡丹と薔薇』
2002年の『真珠夫人』は言わずと知れた昼ドラブームの火付け役となった作品だ。1920年代の通俗小説を原作に、現代を舞台に置き換えてドラマ化されており、以後、昼ドラといえば過剰な演出による愛憎劇という市民権を得る。
「『真珠夫人』というドラマは妻が内通している夫への報復として、タワシをコロッケの代わりに皿に乗せて夕食に出した、“たわしコロッケ”なしでは語れません。そのインパクトだけで何杯でも白飯が食べられる作品で、視聴者にとってはもはやメッセージやテーマはあってないようなもの。爆発的な人気になる作品の宿命で、作り手の意図から離れたものがブームになってしまう。朝ドラ『おしん』の大根飯もそうでした。
劇中に散りばめられた小ネタのアイデアに、制作者のクリエイティビティのすべてが注がれていたと言っても過言ではないでしょう。
その後はあり得ないネタが再生産され、大胆な演出が拡大。昼ドラ人気は2004年の『牡丹と薔薇』(フジテレビ系)で頂点を迎えました。『牡丹と薔薇』では“たわしコロッケ”にも通じる“牛革の財布のステーキ”が出てきますね。当時は狂牛病が話題だったからでしょうか」
しかし、2009年3月末にTBS系が月曜から金曜13時台のドラマ枠を廃止したことを皮切りに、各局で打ち切られ、2016年3月、日本の地上波から新作の昼ドラは消滅した。
背景には民放局を取り巻く経営環境の変化のほか、2002年の『冬のソナタ』のような純愛系作品や韓国ドラマへ人気がシフトしたこと。レンタル・配信などエンタメの選択肢が多様化したことなども考えられるという。
「女性週刊誌のトピックスをイメージするとわかりやすいと思うんですが、朝ドラも昼ドラも、韓国ドラマもひとつの同じ界隈の作品群なので。2016年にはセルフリメイク的に『新・牡丹と薔薇』も制作されましたが、昼ドラ人気が復活することはなかったようです。
ちなみに『牡丹と薔薇』以降も、宮藤官九郎脚本の『吾輩は主婦である』(2006年・フジテレビ系)や、人気ドラマのテッパンのひとつ・温泉旅館を舞台に嫁姑喧嘩などを描いた『花嫁のれん』(2010年・フジテレビ系)など、ホームコメディ路線の作品は制作されていました」
テレビ朝日では2017年から2020年にかけて昼ドラを復活させていたこともあるようだが、やはり新作の制作はなかなか容易ではないらしい。
「『牡丹と薔薇』では、ぼたんが輪姦されるという過激なエピソードをはじめとして、殺人など人間の負の面が満載で、不倫もある種ドリームのように描かれている。当時はそれが醍醐味でもあったのですが、いま真っ昼間から地上波で放送したらコンプライアンスの問題を指摘されるでしょう」