警察庁長官は「通達の趣旨に沿った対応がなされたか」

彩咲陽さんが姿を消した2日後の12月22日に、祖母宅の1階ガラス窓が割られ鍵が開いているのが見つかっている。家族によると、この日通報を受けて現場に来た警察官は「事件性がない」と言い、写真撮影も指紋採取もしなかったという。

これに対し県警は、指紋採取は今年1月7日に行なったと説明し、当日実施しなかったことを認めている。だがAさんはこの説明に不信感を隠さず重要な証言を始めた。

「正月明けに警察が祖母の家に来た記憶はありません。それはもっと後です。私たちは川崎臨港署の生活安全課の対応が信じられず、ほかの刑事に取り次いでくれと求めました。

そこで生活安全課の担当警察官を通じて刑事課強行係の刑事さんと連絡が取れたんです。その人は当初『生活安全課から回ってきた資料を見ると事件性はないとなっています』と言っていたんですけど、私たちがもう一度現場を見てほしいと求めると、現場に来てくれました。4月上旬だったと思います。

そこで刑事さんが現場を見て『これはヤバい』って言ったんです。それを聞いて祖母は『何がヤバいんですか』とたずねています。指紋採取はその時に行なわれています」(Aさん)

割られたガラス(親族提供)
割られたガラス(親族提供)

事実は明らかではないが、指紋採取の時期について、遺族の記憶と警察の説明は食い違っている。

そして、「被害者の彩咲陽さん本人の証言がなければ、ストーカー規制法での捜査ができない」と家族に言い続けてきたという県警は、その日から3週間ほど時間をおき、同法違反容疑で白井容疑者宅の家宅捜索に乗り出し、遺体を発見した。

失踪から3か月以上経った祖母宅の現場を一目見た刑事は、いったい何に「ヤバい」と感じ、家宅捜索を行なったのだろうか。丁寧な説明が求められる。

彩咲陽さんの遺体が見つかった白井容疑者の自宅前に手向けられた花(撮影/集英社オンライン)
彩咲陽さんの遺体が見つかった白井容疑者の自宅前に手向けられた花(撮影/集英社オンライン)
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8日、警察庁の楠芳伸長官は今回の事態に関して「結果としてこのような重大な事案となったことを重く受け止めている」と表明。ストーカーへの対処について、「警察庁の通達の趣旨に沿った対応がなされたか、しっかり確認するよう指導していく」とも述べた。

楠長官は「(ストーカーなどの)人身安全関連事案は認知した段階で被害が加えられる危険性や切迫性を正確に把握することが困難」としながら、「重大事件に発展する恐れが極めて高いことから、被害者などの安全の確保を最優先に対処することが肝要であると認識している」とも述べた。

その通り恐れていたことが起き、彩咲陽さんの命は奪われた。なぜ防げなかったのか。家族は真相究明を求める署名活動を続けている。

Aさんは「泣き寝入りはしません。説明を求めて闘います。これからは彩咲陽の恨みを晴らさないと」と、決然と語った。

命を奪った者が最も悪いのは当然だが、警察には適切な対応がなされていたかの説明責任が求められる。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班