苦しかったから獲れた銀メダル。10年の原点回帰でその“先”へ
一方、そのスペインリーグに挑戦する前に大事な戦いがある。今年11月に開催が予定されているAOCだ。今回は来年9月にカナダ・オタワで行われる世界選手権の出場権がかかっており、男子日本代表は2大会ぶりの出場を目指す。
東京パラリンピック以来、“世界一決定戦”の舞台から遠ざかっている日本にとって、来年の世界選手権は絶対に逃すことはできない。パラリンピックの前哨戦という意味合いもあり、ロサンゼルスへの道はそこでの経験や収穫が大きく影響するからだ。その男子日本代表において、鳥海の役割は大きく、欠かすことのできない存在であることは言をまたない。AOCに向けて、鳥海は今、全精力を注いでいる。
代表活動も今年で10年となる。「これまでいろいろな経験をしてきて、今、一周まわってまたこれから改めて再スタートを切る感じ」という鳥海は、10年間をこう振り返る。
「東京までは日本代表が負け続けてきた苦しい道のりでした。でもそれを乗り越えたからこそ成長できたし、東京で銀メダルを取ることができたのだと思います。一方、そこからパリを目指しての道のりを振り返ると、逆に苦しんでなかったなと。なんていうか、うまいこと勝とうみたいな気持ちがあったように思います。個人としてもチームとしても成長したかというと、苦しまなかった分、その部分が薄かったように思うんです」
そして、こう続けた。
「だからこれからはどれだけ新しいチャレンジをして、それをどう乗り越えて成長していけるかだと思っています。ある意味、10年目にしてようやくたどり着いた境地かなと。一周まわって原点に戻ってきた感じです。そういうなかで今は、車いすバスケに対してすごく前向きですし、自分自身にフォーカスできています。まずは自分が成長する姿を見せることで、チームからも周りからも“認めさせる”じゃなくて“認めてもらえる”ような選手になりたいと思っています」
異次元の才能を持ち、規格外のパフォーマンスで魅了し続けているプロ車いすバスケットボールプレーヤー鳥海連志。代表歴は10年だが、まだ26歳。あふれんばかりのポテンシャルを持つ彼の全盛期は、まさにこれからだ。
写真/長田洋平/アフロスポーツ ・文/斎藤寿子