韓国での経験を糧に、本格的に挑むスペインリーグ

帰国後、まず最初に着手したのは車いすの高さを最大まで上げることだった。

新しい車いすの高さは、9年前のリオデジャネイロパラリンピックからは約30センチも高くなった。それが海外勢の中でどう優位に働くのか、逆にうまくいかないところはどこか、それを見極めたいと考えた。

そこで、鳥海が渡航先に選んだのが隣国の韓国リーグで、地域のクラブチームに所属してプレーした。選手のレベル自体は「日本とあまり変わらなかった」というが、国際審判員の人数が少ない韓国リーグでのジャッジは日本とは異なり、強いコンタクトをすればすぐにファウルを取られたという。チームの人数も少なく、ファウルトラブルだけはさけなければならないという状況下では「これまで自分がやってきたようなディフェンスはなかなかできなかった」と語る。

ただ、韓国の選手たちのシュート決定力の高さなど個々のスキルは高く、「そういう部分ではマックスまで上げた車いすでプレーしてみて参考になることがとても多かった」と鳥海。新しい車いすにしてから日本代表での試合が少なかったことを考えると、「韓国に行ったことでいろいろと試せる部分があった」という。「自分のこの高さが海外相手にどういう利点があるか、何が有効的なのかを確認することができたので、非常にいい経験を積むことができました」と振り返った。

韓国リーグの経験によって高さを追求した車いすでのプレーに手応えを掴んだ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
韓国リーグの経験によって高さを追求した車いすでのプレーに手応えを掴んだ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

鳥海は今、車いすの高さを上げたことで、以前のような俊敏性はないと感じているという。ただその分、ミスマッチを狙えるケースが増え、また高さがある分、パスも出しやすくなっている。

「(高くして)最初はマイナスなことが多かったけれど、今は徐々にプラスにできることが増えてきています。それは、韓国リーグでプレーしたからこそだと感じていて、挑戦させてもらえたことにとても感謝しています」

来シーズンは、長期間にわたる新天地での競技生活が待ち受けている。世界中から代表クラスのトッププレーヤーたちが集結し、しのぎを削り合うスペインのリーグに参戦するのだ。

ドイツやイタリアなどの強豪クラブが対戦するヨーロッパクラブ一決定戦「ユーロカップ」で何度も優勝チームを輩出するほどのトップリーグでもある。鳥海が所属するのは、そのスペインリーグの中でも強豪で知られるBSRアミアブ・アルバセテだ。

昨シーズンのヨーロッパチャンピオンでもあり、今シーズンは藤本怜央(日本代表)が所属している。そんな世界トップクラスのクラブチームで、鳥海にとって初となる本格的な海外挑戦が、今秋にスタートする。そこでの経験をすべて日本代表の復権につなげるつもりだ。

秋からは新天地での挑戦が始まり、トップリーグでスキルを磨く(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
秋からは新天地での挑戦が始まり、トップリーグでスキルを磨く(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

「この挑戦は、一つはパリパラリンピックに出場できなかったことが大きなきっかけです。現在世界のトップにいる選手たちがプレーする海外のクラブチームに身を置くことで、次のパラリンピックに向けて成長したいと考えています」