欧米ではシニアは歓迎され、若者が苦しむ
年収が「上がらない」欧米の一般労働者には、こうした「シニアのキャリア危機」は全く見られません。彼らは、年収が上がらない分、役職定年や定年再雇用などで年収が下がることもなく、安定した生活を送り続けられます。
そして、「若者と大差ない安い賃金で働いてくれて、教育投資も不要で、危なっかしいこともしないから、リスク管理も少なくて済む」ということで、欧米ではシニア労働者が優遇されているのです。こうした長期勤続者優遇を「シニオリティ(先任権)」と呼び、内規・協約などに明記している企業や国も多く、法律にして、解雇時の保護を謳っている国さえ少なくありません。
つまり、日本と真逆なのですね。
新卒未経験者など職にありつけない欧州
日本の正社員の「上がり続ける給料」という仕組みは、逆に言えば、若年者の年収を抑えられるということにもなります。そのため、日本では「安い」若年労働者を欲しがる企業が多く、それが、新卒大量採用という、これまた世にも稀な慣行を維持させる原動力となっています。
未経験で何の熟練もない大学新卒者が歓迎されること自体、欧州では「珍しい」ことなのです。
欧州の場合だと、大学時代に授業の合間や休暇を利用して、長時間×長期間の企業実習を何回もこなしながら腕を磨き、その延長で「職を得る」のが基本となります。
フランスの場合、在学中(欧州の大学は3年制)の企業実習期間は平均で14カ月!それでも職が見つからない場合は、公的職業(見習い)訓練を受けるのですが、この場合、訓練とは名ばかりで、企業に派遣されてかなり粗く「こき使われ」ながら、仕事を覚えることになります。
どちらの場合も、極めて低い賃金しかもらえません。たとえばフランスだと在学中の企業実習は最低賃金の1/3、公的職業訓練は21歳以上でも最低賃金の53%、ドイツのデュアルシステムでは最低賃金の45%となっています。
ちなみに、こうした職業訓練の期間は、独仏ともに2〜3年のケースが多くなっています。最低賃金が欧州の場合、時給2000円ほどと高いのですが、それでも、フルタイムワーク(年1500時間)した場合の年収は、フランスなら160万円弱、ドイツだと135万円にしかなりません。
あの物価のバカ高い欧州で、日本の初任給の半額ももらえないのです。まさに、欧州は若者に冷たいと言えるでしょう。
文/海老原嗣生 写真/shutterstock