昇級するからキャリアの危機が訪れる
職能等級が上がると、その「高い」と認定された能力にふさわしい仕事が任されることになります。等級が高くとも、「課長」など目に見えるポストがない場合は、「課長相応」「スペシャリスト」として、部下の指導や課長の補佐など1つ格上の仕事が任されるようになっていく。
そうするとどうでしょう? 末端の実務からはだんだん離れていくわけです。それが、すなわち、キャリアの危機を引き起こすことにつながります。
まず、日常的にこなす実務は減る。営業なら売上活動、内勤なら事務作業という「明らかに会社に実利をもたらしている」業務が少なくなっていくでしょう。その結果、不況で仕事が減った時など、「大して実務をしていないのに、高給なシニアは要らない」という話が出る。だから日本では、シニアが真っ先にリストラの対象となるのです。
また、今の世の中、テクノロジーの進歩が速まり、法律や倫理規定なども頻繁に更新されるため、随時、新たな知識が必要となります。事務ならもちろんのこと、営業でも利用していたガジェットやツールが刷新されることはままあるでしょう。
ただ、そうした進化・変化も、日々の単位に落としてみれば、ほんの小さな業務変更であり、それが積み重なることで、気づくと仕事風景が大きく変わっています。現場で実務をこなして日々の小さな変化を乗り越えてきた人たちは、何も怖くはないのですが、実務から離れて空疎な仕事をしていた人たちは、まるでついていけず、いつしか浦島太郎になってしまいます。
そうなると、「自分はもう現場には戻れない」というプレッシャーが生まれ、会社にしがみつく気持ちが強まるのです。
それでも、首筋に冷たさを感じると、転職も視野に入れざるを得なくなり出します。そうした時に、転職エージェントを訪ねれば、「実務能力が低い」「アウトプットの割に年収が高すぎる」という厳しい評価を間違いなく受けることになるでしょう。
結果はますます会社にしがみつくことになる。これが職能等級に沿って昇級・昇給を繰り返したシニアの行く末です。