「お母さんが亡くなったら天涯孤独です」

女性への興味を示すことがなかった谷内容疑者だったが、無趣味というわけではなかった。

「読書が趣味で寮の部屋には三島由紀夫や島崎藤村の小説が置かれていました。散歩もよくしていましたね。お寿司が好きで週末になると自転車に乗って回転寿司巡りをしていました。つい最近も『回転寿司は制覇したんで今度はサイゼリヤ行ってきます』なんて話していました。食べるということには喜びを感じていたんだと思います。

彼は、前に犯した罪に関しても後悔していました。万引きなどをされても嫌なので、彼には『何か欲しい物がある時は言えよ』と伝えていました。その度に彼は『刑務所に行くようなことは二度としません。もう刑務所には行きたくありません』と言っていたのですが、まさかあんな凶悪なことをするなんて……」

谷内容疑者が住んでいた寮
谷内容疑者が住んでいた寮

育った家庭環境についても、社長は熟知していた。

「ウチにきた経緯が経緯ですから、去年の10月ごろに心配をかけないように母親には連絡するように言ったことがあります。その後、本人が『電話しました。お母さんはがんで入院してて、もう長くないみたいです』と言うので『それなら会いに行かなくちゃね』と伝えましたが、その後に会いに行ったかどうかは確認していません。

ただ本人は、きょうだいはいるけど関わりがほとんどなく『お母さんが亡くなったら天涯孤独です』と言っていました。もともとは東京に住んでいて、父親が厳しい人で『これから掃除します』『これから勉強をします』といちいち報告させられたそうで、『離婚で父親がいなくなって初めて自分の好きなことができるようになった』と漏らしていました」

事件の直前まで仕事ぶりも真面目で、特段変わった印象は受けなかったという。しかし…

「事件の2週間ほど前から、彼は寮の部屋に鍵をかけるようになりました。部屋の中を見られたくないのだろうとさほど気にしていませんでしたが、今思えば何か心の動きがあったのかもしれません。ただ、それを表に出すようなことはなかった。

事件当日も朝から仕事に出て寮に戻っていたので、私は軽く飲もうと思って17時ごろ彼の部屋を訪ねています。彼は普段からあまり飲むほうじゃないので『アルコール度数の低いお酒でもどうだい』と声をかけましたが、『いや、今日はけっこうです』と断られました」

事件後、交番に向かう谷内容疑者とみられる男の防犯カメラ映像
事件後、交番に向かう谷内容疑者とみられる男の防犯カメラ映像