コロナ禍のバラマキに似た政策を打ち出す石破政権

さらに、国内の失業者が増加する懸念もある。

日産自動車はトランプ大統領による相互関税の発令によって減産計画を一部撤回。アメリカの工場の一部生産ラインでシフトを通常の半分に減らす計画を立てていたが、生産シフトの維持を決めている。

ホンダとの経営統合のウワサもあった日産
ホンダとの経営統合のウワサもあった日産
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日産はアメリカ向けの一部車種を福岡県の工場で生産している。同県内には630社にも及ぶ自動車関連企業があり、トヨタの工場なども加えるとアメリカ向けの自動車の輸出総額は九州の経済圏だけで1兆円を超えている。

もし日産が製造拠点の軸足をアメリカに移すことになれば、この産業界に深刻な影響を及ぼすことになる。仮に日産が日本での製造を続けたとしても、関税の影響で自動車が売れない可能性が高い。

日産は2025年3月期に8割もの営業減益を予想しているが、業績の悪化で関税分を吸収する体力に欠けているのだ。結果的に、日本の製造拠点がダメージを受けることになりかねないのだ。

石破茂首相は中小企業の支援対策として、全国1000箇所に相談窓口を設けると発表した。資金繰り支援などを行なうというのだが、この対策には既視感がある。

コロナ禍で行なわれた飲食店や宿泊事業者などへのコロナ支援だ。コロナ禍の商環境の変化により、助成金やゼロゼロ融資などの支援策を次々と打ち出したが、数多くの事業者をゾンビ化させる結果となった。帝国データバンクによれば、2024年1-9月の飲食店の倒産件数は前年同期間比16.5%増の894件で、過去最多を更新している。

相互関税による影響をバラマキで抑えようとすれば、そのツケを将来世代に先送りすることにもなるうえ、失業者を一時的につなぎ止めるに過ぎないのだ。

そして今は物価上昇局面だ。2024年度の消費者物価は2%台後半、2025年度は2%台半ば、2026年度はおおむね2%程度になると予想されている。リーマンショックが起こった2008年は0.2%だった。物価が上昇し続け、賃金の停滞や失業率が増加するのはスタグフレーションの典型的なパターンであり、深刻な景気後退局面である。

2025年の参院選は景気対策が争点になることは間違いなさそうだが、国民からの信頼を取り戻せない自民党は、今後さらに起きうる景気後退も後押して大敗する未来も見えてくる。トランプ関税は日本の経済、政治を一変させる可能性もある。

取材・文/不破聡   写真/shutterstock