広岡達朗が語る新神宮球場に望むこと

「その思いはまったく変わりません。神宮球場は神聖な道場です。選手として、コーチとして、そして監督として、私は神宮球場に育てられました。ヤクルト時代は、私にとって、今でもいい思い出ですから」

92歳となった名将の言葉が、深く、静かに私の中に染み入っていくようだった。

球界のご意見番として、現在でも舌鋒鋭い提言を続ける広岡さんに改めて「神宮再開発」について尋ねると、「ラグビー場と野球場を入れ替えるんだろう」と彼は言った。
これまでの広岡氏の発言から、開発に否定的なコメントとなるのだろう。そんな予想をしていると、彼は意外な言葉を口にした。

「古くなって不具合が生じてきたのなら、新しくするのは当然のこと、修理して対処できないのなら、取り壊して新しいものを作ることは自然の摂理」

いいものはいい、悪いものは悪い。常に是々非々である広岡氏らしい発言だと言えるのかもしれない。さらに彼は続けた。

(撮影:佐藤創紀/朝日新聞出版写真映像部)
(撮影:佐藤創紀/朝日新聞出版写真映像部)
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「大切なのは、これまでの神宮球場らしさをきちんと受け継ぐこと。その上で、選手たちにとって最適な野球場を作ること。そうであれば。私としては何も言うことはない」

順調に計画が進めば、新球場が完成するのは2032年のことになる。このとき、広岡さんは百寿、つまり100歳となる。

「私が100歳のときに新球場が完成する? その頃には私はいない……」

決して冗談めかした口調ではなく、真剣な物言いだった。

「……新しい時代は、新しい人たちが作っていけばいい。大切なのは、常に真理を見つめ続けること。物事の本質を忘れないこと。そうすれば道を誤ることはない」

92歳の老賢人の言葉は重い。

『神宮球場100年物語』(朝日新聞出版)
長谷川晶一
『職業・打撃投手』
2025年2月21日発売
2,420円(税込)
304ページ
ISBN: 978-4022520364
明治神宮外苑の再開発で歴史ある景色が一変しようとしている。数々のヤクルト関係の著書もあるファンとして神宮球場に通い続ける著者が、神宮にゆかりのある人々をたずね、その100年の記憶をたどり神宮の過去、現在、未来を描く。
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