広岡達朗が語る新神宮球場に望むこと
「その思いはまったく変わりません。神宮球場は神聖な道場です。選手として、コーチとして、そして監督として、私は神宮球場に育てられました。ヤクルト時代は、私にとって、今でもいい思い出ですから」
92歳となった名将の言葉が、深く、静かに私の中に染み入っていくようだった。
球界のご意見番として、現在でも舌鋒鋭い提言を続ける広岡さんに改めて「神宮再開発」について尋ねると、「ラグビー場と野球場を入れ替えるんだろう」と彼は言った。
これまでの広岡氏の発言から、開発に否定的なコメントとなるのだろう。そんな予想をしていると、彼は意外な言葉を口にした。
「古くなって不具合が生じてきたのなら、新しくするのは当然のこと、修理して対処できないのなら、取り壊して新しいものを作ることは自然の摂理」
いいものはいい、悪いものは悪い。常に是々非々である広岡氏らしい発言だと言えるのかもしれない。さらに彼は続けた。
「大切なのは、これまでの神宮球場らしさをきちんと受け継ぐこと。その上で、選手たちにとって最適な野球場を作ること。そうであれば。私としては何も言うことはない」
順調に計画が進めば、新球場が完成するのは2032年のことになる。このとき、広岡さんは百寿、つまり100歳となる。
「私が100歳のときに新球場が完成する? その頃には私はいない……」
決して冗談めかした口調ではなく、真剣な物言いだった。
「……新しい時代は、新しい人たちが作っていけばいい。大切なのは、常に真理を見つめ続けること。物事の本質を忘れないこと。そうすれば道を誤ることはない」
92歳の老賢人の言葉は重い。