司会進行でも見事だった粗品
『ytv漫才新人賞決定戦』で圧倒的な審査を見せたその6日後の、ピン芸人ナンバーワン決定戦『R-1グランプリ2025』での司会進行も見事だった。
2021年の『R-1』の司会時は進行が押してしまい、ドタバタ感が否めなかった。ただ今回の粗品の仕切りは視聴者らに落ち着きさえも与えるもので、とてもスマート。
番組序盤こそ、粗品の雰囲気が重いように受け取れたが、これは意識的に「自分」を出さないようにしていたのではないか。
中盤以降は番組の時間進行にもやや余裕が生まれたからか、出場者である「さや香」の新山がネタ中にアイテムとして使用したセンターマイクを壊したことに対し「(中田)カウス師匠が怒るぞ」とツッコミを入れ、さらに点数と順位が伸びなかったことについて「酷評ということで」と毒舌。
新山から「MCでそんなことやりだしたらあかんぞ」と猛抗議を受けるなど、ノリのいいやり取りで笑わせた。
『ytv漫才新人賞決定戦』であれだけの審査能力を発揮したことから、『R-1』でも各ネタに対して言いたいこと、指摘したいことはおそらくあったはず。
それをちゃんと堪え、司会として流れるように進めたのは、ここ数年の粗品の司会進行力の飛躍を印象付けるものだった(一方で3月10日に投稿した動画「1人賛否」での『R-1』評もやはり的確だった)。
『M-1グランプリ2018』を史上最年少で優勝し、『R-1ぐらんぷり2019』も制覇するなど、絶対的なお笑いの実力者でありながら、先輩に反抗的な姿勢を見せる噛み付き芸や毒舌のイメージが定着してしまい、芸人としてのおもしろさより、大胆な発言の数々の方がクローズアップされるようになった、近年の粗品。
しかし立て続けに見ることができた、審査員、司会進行の模様から、あらためて彼の芸人としての優秀さに気づく人も多いだろう。
特に審査に関しては、粗品の考え方がこれからのお笑いの賞レースでの「おもしろい」の判断基準になりそうなほどだ。
かつてそういった価値観を築き上げたのは松本人志(ダウンタウン)だったが、審査をさせても良い、司会をさせても良いとなると、お笑い界の実権はいよいよ粗品の手に渡ると言えるのではないか。
さらに粗品は番組制作面に口を出したり、イベント制作時も妥協を許さなかったりする姿勢で知られている。これらもどこか、松本人志と重なる部分がある。
ただこういったことはすべて、『M-1グランプリ2018』以降、時間をかけて粗品が自分をブランド化させてきた賜物である。