圧のある監督

広岡さんの管理方法には決まりがあって、必ず担当コーチやマネージャーを通して指示を出していました。

私も4年間お世話になりましたが、最初の3年間は、世間話のような会話をしたことは一度もありませんでした。野球の技術、バッティングやスローイングの形だとか、そういう指導は受けましたが、それだけでした。

そして、笑わない人でした。なので、近くに来るだけで何かすごく「圧」がありました。『がんばれ!!タブチくん!!』というアニメで、ヒロオカさんというキャラで登場していましたが、まさにそんな感じで、空気がひんやりしていました。

高知の春野でキャンプをしていたのですが、当時はまだ室内練習場がなくて、雨が降ったときはメイン球場の脇にある狭いブルペンで投球練習をしていました。広岡さんは、投げているピッチャーのすぐ横に立って見ているんです。

私にとっては、それがものすごいプレッシャーでした。「そこに広岡さんがいる」っていうだけでダメなんです。

私はキャッチャーだったのでピッチャーに返球するとき、もし抜けてしまって広岡さんに当たってしまったらと考えると、もう縮こまってピッチャーのところへ投げられません。引っかけてワンバウンドで返したりして、危うくイップスになりかけました。

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「お前、なんだ、肩が痛いのか?」って広岡さんに聞かれ、「いや、あんたがそこにおるからやろ!」と言いたかったのですが、言えるはずはありません。とにかく、プレッシャーをかける監督でした。

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黄金時代のつくり方 - あの頃の西武はなぜ強かったのか
伊東勤
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