選手の王様体質、派閥、タニマチ…阪神タイガースの特殊事情

2023年。阪神タイガースは日本一になった。

終わってみれば2位の広島に11.5ゲーム差をつける圧勝。新聞テレビ雑誌あらゆるメディアは黄色に染まり、そのなかで監督の岡田は連日のように「名将」と大絶賛された。

岡田とは孫ほどに年の違う選手の起用論、育成論が分析され、岡田の口癖であり「優勝」の隠語を意味する「アレ」は「A.R.E.」というチームスローガンになり、年末恒例の新語・流行語大賞にもなった。経済効果は969億円。改めてタイガースの持つ圧倒的な力を見せつけられた。

書籍『虎の血』では、1955年シーズンにわずか33試合で“解任”された、阪神タイガース第8代監督・岸一郎を通じて「なぜタイガースが優勝できないのか」という議題を取材してきた。オーナーと本社、球団の力関係。

「タイガースの監督は阪神電鉄が決める」の不文律がついに崩れた瞬間――“岡田監督&平田ヘッド”が「今までは考えられない人事」といわれる理由_1
阪神タイガースの歴史上、「最大のミステリー」ともいわれる第8代監督・岸一郎(写真/産経新聞社)
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監督と選手王様体質、派閥と報道合戦、タニマチと金……この本に書ききれなかった岸時代以降の歴史と裏舞台も含め、タイガースという唯一無二の特殊球団ぶりに圧倒された。

そして、この原稿をまとめ終わった年に優勝を果たしたこと。なんという運命的なエンディングであろうか。筆者にとってはゴールヘ辿り着いたご褒美のようであり「タイガースで優勝することのなんと難しいことか」と簡単に結ばせてはもらえない、最後の問題である。

阪神タイガース、38年ぶりの日本一。2005年ぶりとなる岡田監督2回目の優勝はタイガースの歴史上、藤本定義ぶり。関西ダービーも59年ぶり……となるこの優勝。前年と比べてたいした補強もないのに、どうしてタイガースは日本一になることができたのか。

「ワシらの優勝の時も21年ぶりや。ぶり、ぶり、ぶり、言うて、富山の寒ブリかっちゅうねん。まぁでもこれが毎年優勝するようなチームだったら、こんな大騒ぎはせんよな」

11月。東京で日本海の海鮮丼を食べながら、川藤幸三が放笑した。

おそらく、毎年のようにタイガースが優勝していたら道頓堀には誰も飛び込まない。優勝までの期間が空けば空くほど、亡念が強ければ強いほど、到達した時の瞬間的な喜びは凄まじい爆発力を生む。

そういう意味ではファンをこれほど喜ばせることができる優勝の間隔も“虎の血”の原則に適ったタイガースの罪深き魅力なのかもしれない。

「しかし、岡田岡田と、どいつもこいつもオカひとりが優勝させたみたいに言うけどな。ローマも優勝も一日にしてならずや。今年のオカの功績は当然大きい。でも、ワシはその前に監督だった矢野や金本や和田や、その前の時代があってだと思っている。

負けても積み重なるものがあるんや。過去の代々の監督たちも、優勝しよう、優勝しようとして、何かが足りなくて負けた。勝つには勝つ要素があり、負けるには負けるだけの要素がある。それが年輪のひとつになって、結果が実ったのが今年になっただけのこと。

監督の力がすべてじゃない。まずは何が必要かって、戦力がなければ勝てん。名将・知将いうたかて、あの野村克也さんが来て阪神は勝ったか? 戦力、監督コーチ、そしてフロントとかな、みんながひとつになっているかどうかやんか。それがやっと、ひとつの方向を向けたっちゅうことやな」