飽和するカフェ業界の未来は
コメダがこうした新業態を開発する背景には、カフェ業界の飽和状態がある。厚生労働省によれば、喫茶店の市場規模は2000年以降、ほぼ横ばいの状態が続いている。1999年度が1.2兆円で2008年度が1.04兆円、そしてコロナ禍が明けた2023年度が1.18兆円と、だいたい1兆円あたりをうろついているのだ。
つまり、これまでのような成長を望むには、カフェを使っていなかった層を開拓する(あるいは一人あたりの消費額を増やす)必要がある。
実際に国内での成長を続けるスタバはドライブスルー店舗の拡大などを行って、全国に何万人といるドライバーを「新たな顧客」として開拓した。
さらにスタバは「スタバカード」などのギフト券の販売にも力を入れていて、それらの利益でも儲けている。
このように、競合であるスタバがいろいろな角度から事業を成長させているのに対し、コメダはどちらかといえば「喫茶店一本足打法」の状態。テーブル注文を徹底し、喫茶店ならではのくつろぎを提供することにこだわってきた。
名古屋発の喫茶店であるコメダにとって、そのこだわりは欠かすことができない。であれば、商品や店舗スタイルを変えて市場を拡大する……というのが、「おかげ庵」の新規事業開拓の理由だろう。
先ほど店舗を訪れてわかった通り、コメダならではのゆったり感や食べ物の充実っぷりなどは健在であり、おかげ庵ではそれがまるっと「和」テイストになっている。
「非コーヒーチェーン」戦争が勃発?
では、おかげ庵は成功するか。
簡単に言うと、そう簡単ではないだろう。
というのも、おかげ庵のような「非コーヒーカフェチェーン」がここ数年でさまざまに出てきているからだ。代表的なのが、紅茶専門店だろう。
スターバックスコーヒーが手がけるティー専門店「STARBUCKS Tea & Café」は2024年に入って出店を加速(現在16店舗)。
さらにスタバの国内2000号店目は、銀座に誕生した「ティバーナストア」で紅茶専門店である。
それに、タリーズコーヒーが運営するティー専門店「&TEA」も、2017年ごろからじわじわと数を増やし続けている(現在34店舗)。
おそらくこうした競合他社が紅茶に目をつけ始めたのも、先ほど説明した喫茶店業界の飽和に伴うものだろう(ちなみにこれとは無関係に、タピオカで一世を風靡した「ゴンチャ(Gong cha)」も「ティーカフェチェーン」と自らを定義して高業績を挙げている)。
興味深いのは紅茶専門店はいずれの店も「大人のためのゆったりとした店舗空間」を意識していること。「&TEA」の店舗は座席配置が通常よりもゆったりしていて、店内空間へのこだわりを見せている。
同じく店舗空間にこだわっているおかげ庵とかなり競合になりそうなのだ。
そんな中、おかげ庵がシェアを伸ばしていくには「米屋の太郎」などと連携して商品の付加価値を上げることなどが急務になってくるはずだ。
「東京カフェ激混み問題」が世間を騒がせているが、コメダを始めとする「非コーヒーカフェチェーン」戦争がしれっと幕を開けているのかもしれない。
取材・文・写真/谷頭和希