去年の春にはすでにあった「コメ騒動の予兆」とは…

集英社オンラインの取材に協力してくれたのは、茨城県筑西市の「株式会社大嶋農場」代表取締役の大嶋康司さん(65)。

江戸時代から300年以上稲作を続けてきた大嶋農場は、現在25ヘクタールの広大な農地でミルキークイーン、コシヒカリなどを作っている。

「株式会社大嶋農場」代表取締役の大嶋康司さん(65)(撮影/集英社オンライン)
「株式会社大嶋農場」代表取締役の大嶋康司さん(65)(撮影/集英社オンライン)
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代々続くコメ農家であり、自身も東京農業大学で農業を学んだ大嶋さんの視野は広く、分析は鋭い。まずは「令和のコメ騒動」についての見解から。

「私が初めてコメ騒動の予兆を耳にしたのは去年の4、5月の頃のことでした。取引している包材(包装材料)屋さんから『お米は6月くらいにショートしちゃうよ。余ったコメがあったらいくらでもいいから出してよ』と言われました。

この包材屋さんは何十件、何百件と米屋を回って袋を納めているので、現場の『コメがない』という話をたくさん耳にしていたんです。

私はその時は『ほんとに?』なんて半信半疑でしたが、その後に業界を中心に本当にコメ不足なんじゃないかという話が出回り、報道が始まったという感じでした」

写真はイメージです(PhotoACより)
写真はイメージです(PhotoACより)

酷暑で加工用の「クズ米」も減少。業者が主食用のコメを使用し… 

その要因には海外からの観光客の急増や、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発表されたことによる消費者によるコメの買占め、一昨年から続く酷暑の影響などいくつか思い当たるものがあったそうだ。

「ひとつはコロナ禍が明けて始まったインバウンドで、海外の人たちが訪れて日本のお米が消費されたということがあると思います。もうひとつは一昨年から始まった異常気象による影響ですね。ここまで異常な高温な気候で生産、収穫したことは我々コメ農家にとって初めての体験で、暑さで収量も落ちたんです。

これまでは100キロの玄米を精米すれば90キロの白米ができていました。しかし、この異常な暑さの中で育てた米は精米すると82~85キロの白米しかできませんでした。この時点で5~8%は収量が落ちたわけです」

写真はイメージです(PhotoACより)
写真はイメージです(PhotoACより)

また、酷暑に伴い「クズ米」の割合も減ったという。クズ米とは煎餅やあられ、味噌、醤油などの原料になる形の不ぞろいなコメのことだ。

「例年は価格の安いクズ米を加工していた業者が、クズ米を手当てできずに主食用の中でも安価な米を原料にせざるを得なかった。

このクズ米が少ないのも暑さのせいです。地域によって粒の大小の設定は異なりますが、一定の大きさで選別機にかけて弾かれたものがクズ米になります。ところが暑さでまるまる太ったお米は選別機でクズ米をあまり出さず、結果的に例年の3分の1程度の量しかとれなかった。

クズ米の収量が少ないなんて聞いたことないでしょ? そんなことは公にされていないですから。このクズ米の減少で加工業者が主食のコメを使ったのもコメ不足の大きな原因だと思いますよ」