農業者の間では「農水省の統計のとり方が正確ではなかった」という声も

そして、昨年の令和6年(2024年)は、前年にも増して不作だったという体感が、大嶋さんにはある。そもそも農水省が発表する「消えた21万トン」が怪しいという。

「農水省は『令和6年は前年より”取れた”』と言うけど、取れてないと思いますよ。農業者の間では『農水省の統計のとり方が正確ではなかった』って言われています。

一部は投機筋が入ったかもしれないけど、21万トンもブローカーが隠しておけるわけなくて、せいぜい1万トンか2万トンくらいのもんだと思いますよ。

収量も統計学に基づいて出しているはずだけど、その数字の信憑性にも疑問がある。農水省の農家のヒアリングも昔と比べて明らかに精度が落ちている。

ウチには昨年末、初めて関東農政局水戸支局から『そちらの生産量と在庫はどれくらいですか?』と電話がかかってきました。しかも数字について『ざっとでいいですから。だいたいでいいんです、だいたいで』という聞き方ですからね。何でもいいから数字を言ってくれって感じでしたよ。

卸などからは正確に数字をとっているかもしれませんが、そもそも農家から(消費者が)直接買っていたら卸もスーパーも通らないし数字として上がらない。ウチみたいな直販が増えている以上、それらは隠れた数字になるんですから。

『消えた21万トン』なんて小説みたいにカッコつけた言い方して、実はただ数字が把握できてないだけなんじゃないですかね」

「株式会社大嶋農場」の倉庫の様子(撮影/集英社オンライン)
「株式会社大嶋農場」の倉庫の様子(撮影/集英社オンライン)

では、いったいコメ農家が「食えない」現実は、政府の無策に加え、誰が生み出したのか。

「農協ですよ。多くのコメ農家に『コメ一俵いくらですか?』って聞いても『農協に持ってって通帳見ないとわかんねえな』って返ってくるのがいつからか一般的になってしまいました。

毎年農協が決まった金額で買い取ってくれるから個人の米農家の多くは自分の米の評判も価格も気にしなくなってしまったんですよ。農協は、これを『当たり前』と思わせる仕組みを作ってしまった。

ウチは作ったコメがどこのお米屋さんで売られ、評判がどうなのかを耳にするようにしています。でも、販路を探すのは専業農家でないと難しいとは思いますよ。時間も金もかけないとできませんから。

一方でコメの問屋だって“弾”がなければ商売できない。今は2月だから、大きい問屋は新米が出るまでの7ヶ月は倉庫に持ってないといけないわけですよ。コンビニ、ファミレス、食堂に納めているところは『おコメありません』じゃ話にならないわけだから。去年は米問屋の多くは例年の6~7割しかコメが集まらないと嘆いていました」

2024年末のとあるスーパーの棚(写真/Shutterstock)
2024年末のとあるスーパーの棚(写真/Shutterstock)

そして、アグラをかいても「食える」システムを構築していたJAにも異変が起こっていた。

「まず農協にコメが集まらなくなった。農協は農家からコメを集荷して卸に売りますよね。大手卸も農協傘下の農家に直販してもらうことは、暗黙のルールでやらなかった。

ところが、去年に関してはそういう“掟破り”も出たので、ある農協はそのマナー違反をした卸には『今年は売らない』と宣言しています。農協が売らないなら、卸の方も買い付け先の確保に注力しなきゃって、そんな話になっていますよ。

これまで農協のシステムを支えてきた小規模農家が離農するケースが増え、私たちみたいな会社組織の農家が残る傾向の中で、卸も『農協頼みじゃヤバい』と直販できる取引先にシフトする流れが加速しています。

私が大学を出てコメ農家を始めたころ、周囲から『これから農業はいいな。やる人少なくなるから』と言われてから40年何にも変わらなかったのが、ここ1、2年で潮目は変わったと思います」