600億円近い莫大な簿外債務は元の会社に残される
ミュゼが破産危機に陥ったのは実は今回が初めてではない。そして、簡単には潰せないことで「価値の高い会社」になっていたことも事実だ。
2015年10月、当時ミュゼプラチナムを運営していたジンコーポレーションが金融機関との間で任意整理に入っていることが明らかになった。その際に再生スポンサーになったのが、広告事業を手がけていた「RVH」だった。
このときのミュゼプラチナム(ジンコーポレーション)最大の問題点は前受金を全額売上計上していたことだ。2015年11月末時点で587億円あまりが簿外債務となっていた。これが未消化分の前受金である。ジンコーポレーションの2019年3月末時点における純資産は142億円。しかし、実態は400億円を超える債務超過だったというわけだ。
こうした状況の中で、RVHによるM&Aは巧みなものだった。まず、ジンコーポレーションがミュゼプラチナムという新たな会社を設立し、脱毛サロン事業と資産を承継。RVHは235万2000株を新規発行し、株式交換でミュゼプラチナムを完全子会社化した。株式の時価は20億円ほどで、キャッシュアウトを伴わない買収だった。
さらに簿外債務587億円はジンコーポレーションに残された。ミュゼを子会社化したRVHは、ジンコーポレーションの未消化役務を受託契約で実施するというものだった。
つまり、すでに顧客が契約した(前受金)分の施術はジンコーポレーションから受託する形で、新会社ミュゼプラチナムが提供するというものだった。RVHは旧契約者との関係を遮断したのだ。
ただし、RVHは旧契約者にサービスを提供する受託契約を結んだが、施術に対する現金収入は生じない。それがミュゼプラチナムの買収対価の一部であるというものだった。仮にすべてを消化した場合、譲受価額は簿外債務となっていた587億円になるのだ。
しかしこれだけの金額をすべて消化するのは現実的ではない。事実、RVHはその後の2020年に早々とミュゼプラチナムを売却している。
ジンコーポレーション時代のミュゼは、2011年から2014年にかけてトリンドル玲奈氏を起用した大々的なプロモーションを実施し、脱毛サロン業界で圧倒的な人気を獲得していた。再生を図るRVHは脱毛ビジネスの要となる「集客」において、その恩恵を受けられる。しかも、旧契約者はサロン側にとっては次のプランを提案する絶好の相手だ。旧契約者の新規契約は当然、RVHの収入になる。
サロンは固定費が発生しているため、空き時間を活用して未消化役務を行なうというオペレーションも可能だったこともあり、RVHにとってミュゼプラチナムの取得は極めてメリットの大きいものだったのだ。こうしてRVHの美容事業は拡大してゆく。