充電器忘れ、3時間叱責

職場でのネガティブな体験に怒りを覚え、損害を与える形で「仕返し」や「報復」の意図を込めて突然会社を去る「リベンジ退職」がアメリカで急増している。SNSでもトレンド入りし、今年は日本でも増えるのでは、と囁かれているが、損害を与えるまでには至らなくても、不満や恨みを持ちながら退職する従業員は少なくない。

「休職し人事部に被害を訴えましたが、それすら握りつぶされたんです。自分は会社の歯車に過ぎなかった。もうあの会社には到底ついていけないと思い、退職を決めました」

そう語るのは、現在大阪府内の大学で韓国語の講師として勤務する男性・Hさん(32歳)。新卒時は新聞社に入社。大学院にも進学し、国際政治の専門性を身に着けた上での就職だったが、わずか3年半で記者職を退く結果に…。一体なにがあったのか。

「新人時代から2年半、ずっと警察本部で事件・事故取材を担当していました。取材先の警察官に対しては今でもすごくリスペクトがありますし、人脈を一つ一つ紡ぎながら記事化するプロセスなど、取材活動自体にはとてもやりがいを感じていました。

だけど、新聞社の昼夜問わない働き方に加え、公式発表より半日早く報道する“抜き抜かれ”合戦などのシステムに意味や価値を見出すことができませんでした」(Hさん、以下同)

大学院を卒業後、新聞記者として働いていたHさん(本人提供、以下同)
大学院を卒業後、新聞記者として働いていたHさん(本人提供、以下同)

速報性以上に深堀りする取材に重きを置いていたHさん。記者2年目の時には、22歳の孫による祖母介護殺人を裁判傍聴や周辺取材を含めて詳細に報じたところ、ネットニュースなどでも大きな反響を呼び、社内外で賞を受賞。会社には寄付金や手紙が多数寄せられた。

そんな順調な記者キャリアをスタートさせたかに見えたHさんだったが、2年目の秋には暗雲が立ち込めることに……。

「秋の異動で新たに赴任した次長が、労務管理に関心もなければ、『部下はいくらでも使い倒していい』というような思想の持ち主でした。そこから休日も関係なく働くことが奨励され、代休の申し出も却下されました。

『男だから』という理由で、担当外にも関わらず、車で片道2時間以上かかる遠方の取材に駆り出されたり、パソコンの充電器を忘れたことで3時間断続的に叱責されたりしたこともありました」

業務過多と精神的なストレスから胃腸の調子も悪くなり、みるみる痩せていったというHさん。ズボンも2サイズ落ち、心療内科で処方された抗うつ剤を服用しながら仕事をこなす日々を送るようになっていた。

しかし、そんな日々もついに限界を迎えた。