奈良県月ヶ瀬村女子中学生殺人事件

神戸で小学生が殺傷される事件が起こり、関西の報道が騒ぎ出していた1997年5月4日、奈良県添上郡月ヶ瀬村という山間の村で、当時13歳の女子中学生が行方不明になる事件が発生、着衣などが血の付いた状態で発見されます。

そして、その容疑者はすぐに浮上しました。同じ村に住む25歳の男性でした。すぐさまマスコミがこの男性の自宅に押し掛け、大騒ぎとなったのです。

犯人と目されたその男性は、記者やカメラマンに向かって常に反抗的な態度で、声を荒げるなどしていました。しかしそれは、マスコミにとって“インパクトのある格好の映像”になるだけでした。テレビは連日その男性を犯人のように報道していたのです。恥ずかしながら私もその一員でした。

しかし、その段階では警察の発表があったわけではありません。事件が起こったときから、村人の間では「彼がやったに違いない」という噂が出ていたことが発端のようなのです。それを聞きつけたマスコミが、あたかも犯人と決まったかのように連日その男性を追いかけ回していたのでした。

そんな状態が2カ月ほど続いた7月23日、この男性は逮捕されました。


大勢の報道陣に囲まれ、奈良署に向かう容疑者を乗せた車(写真/産経新聞社)

大勢の報道陣に囲まれ、奈良署に向かう容疑者を乗せた車(写真/産経新聞社)

そして8月1日、男性の自供通り、山中から行方不明だった女子中学生の遺体が発見されたのでした。警察から発表された事件の概要はこうです。

新車に乗った犯人が、たまたま近所に住む顔見知りの女子中学生が歩いているのを見かけて、「家まで送ってやろう」と声を掛けます。しかし、女子中学生は無視して歩いていってしまいます。

その態度に腹を立てた犯人は彼女を背後から車で轢き、そのまま連れ去ってしまったのです。連日映像を繋いでいた私も、「その程度のことで殺してしまうなんて、なんというやつだ」という気持ちで編集していました。

この事件は容疑者も犯行を認めており、短気な不良青年が起こした殺人事件として決着しました。そして早々に人々の関心は薄れていきました。というのも、この事件は先にお話しした神戸連続児童殺傷事件と時期が重なっていたからです。

2月10日【神戸】 小学生の女児2人が何者かにハンマーで殴られる
5月4日《月ヶ瀬》 13歳の女子中学生が行方不明になる
5月24日【神戸】 小学6年生の少年が行方不明になる
5月27日【神戸】 中学校の正門に少年の首だけが置かれているのが発見される
6月28日【神戸】 14歳の少年が逮捕される
    《月ヶ瀬》 犯人と目される男性が連日報道される
7月23日《月ヶ瀬》 25歳の男が逮捕される

まさに同時進行のように両事件は推移していたのです。

この月ヶ瀬の事件はマスコミからも世間からも早々に忘れられていきましたが、今の私にとっては心に引っかかるものが残っている事件です。のちに知ったこの犯人の“ある情報”に考えさせられたのです。