「加害者」としての覚悟を持った当事者活動

お金にしろ承認にしろ愛情にしろ、少しでも減ることに恐怖を感じる「枯渇恐怖」や「満たされない感覚」は、クレプトマニアのキーワードだと悠さんは考える。とはいえ良心の呵責はなかったのか。悠さんは象徴的なエピソードを話してくれた。

「二度目に発覚した時、店長がすごく怒っていて、なんでこの人こんなにイライラしてんだろうって思っていました。そのうち夜間店長との引き継ぎの流れになって、きっと早く帰りたいからだって思ったんですよ。

いや、万引きに怒ってんだよって今だったらわかるんですけど、それぐらいピンときてなかった。お金払うから許してよ、くらいの感覚で」

当事者活動でたくさんの仲間に会っていると、家族など身近な人への謝罪は出るが、被害者にまで思いが至らない人が多いという。

「相手を困らせたいとか、傷つけたいとかではない。被害者がいることや、心の痛みを想像できないという感じが近いです。自分の感情がよくわからないから、他者の気持ちもピンとこない」

入院生活で、悠さんはさまざまな経験をした。万引きをやめていなかったことの正直な告白に始まり、気持ちの言語化や店舗への被害弁済。思い入れのあるペンを盗まれるというショッキングな経験もした。

自分の感情を大事にできるようになるにつれ、どれだけ相手を傷つけ怒らせてきたかを理解できるようになった。顔を出して当事者活動をすることには大きなリスクもあるが、「罪償い」だと話す。

「厳しい意見があることは当然です。だって私、加害者ですから。私は一度も収監されず、前科もつかず来てしまったので、禊(みそぎ)を終えていない。店舗への被害弁済では事実確認ができないから受け取れないというお店も結構あって、過去に向かって罪償いをするのは限界があるとも思いました。

逆に優しい言葉をかけてくれたお店もあって、未来に繋がる“恩送り”をしたい。世の中から万引きを減らしたいんですよ」

悠さんはホームページ「クレプトマニアからの脱却」を運営し、オンライン自助グループ「Room K」も立ち上げた。グループには現在、400人もの登録者がいる。講義・講演活動も積極的に行い、収監中の当事者たちとの交流も続けている。贖罪の意味を込めて、悠さんは必要とされればどこにでも出向き、自分の経験を語るつもりでいる。

高橋悠●東京都在住。中1で摂食障害・過食嘔吐になりクレプトマニアに発展。通院と自助グループ参加を継続し、現在は盗らない生活を送れている。現在は理学療法士・ケアマネージャー・ASK認定依存症予防教育アドバイザーとして活躍。当事者ならではの経験から講演活動なども行う。http://www.facebook.com/profile.php?id=100054453790049

取材・文/尾形さやか

「罪償い」の意味を込めて当事者として講演活動などに力を注ぐ高橋悠さん
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依存症支援の雑誌『季刊ビィ』を収監中の仲間に送っている
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