TikTok騒動で日本企業が得られる教訓

つまり、トランプ政権が強行した政策を、バイデン政権は議会を説得し、正式な法律として成立させたのだ。

「そして、トランプ大統領が再び就任しましたが、すでにTikTok禁止は法律として成立しています。アメリカでは議会の権限が強いため、大統領が法律の運用を変更することはできても、法律そのものを無効化することはできません。

ただし、大統領にはその法律を解釈し、政策に落とし込む過程で法律の施行を遅らせることもできるため、TikTokに対する規制を4年間延長することは可能かもしれません」

トランプ大統領は就任日の1月20日に新法の適用を猶予する大統領令を出し、「私はTikTokが好きだ。我々の事業を中国に渡したくない」と発言した。

※画像はイメージです(shutterstockより)
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「結局、TikTokをめぐる問題の本質は、中国に情報流出しているのかという懸念にあります。すでにアメリカ国内の政府機関ではTikTokの使用が全面禁止されています。国務省や大使館職員も使用しておらず、大統領選挙では候補者だけが例外的に利用していました。

2020年の大統領選挙では特に民主党のバイデン陣営が積極的に活用していたため、トランプ大統領はこれに反発し、TikTok禁止を強く主張するようになったのです。

ただ、昨年の大統領選挙ではトランプ陣営もハリス陣営に負けないほどTikTokでの発信を続けました。同アプリの影響力はトランプ大統領も体感しているはずです」

日本製鉄以上にTikTokの命運はトランプ大統領に握られている。ここで日本企業が得られる教訓はなにか?

「例えば、中国で製造した製品をカナダなど第三国経由でアメリカに輸出するような『迂回貿易』について、現在アメリカ政府は強く取り締まりを進めています。日本製鉄が中国の鋼鉄メーカーと合弁会社を運営していたことが、CFIUSに疑問視されたように、今後、中国が関連するビジネスには慎重になるべきでしょう」

郷に入れば郷に従え――。日本企業は、まさにこの言葉の通り、アメリカでの事業展開を進めていく必要がある。そして、他国企業の状況を対岸の火事と傍観するのではなく、いつ自分にも火の粉が降りかかるのかを意識しなければならないのだ。

取材・文/千駄木雄大