世界征服を防ぐには

例えば、全部で4つの国がある世界で考えてみましょう。A国は10の勢力、B国、C国、D国はそれぞれ2、3、2の勢力を持つとします。すると、B国、C国、D国の勢力をすべて足し合わせても7しかなく、A国(10)に対する勢力は均衡しません。

こうなると、3か国がどれだけ力を合わせて対抗してもA国の攻撃を防げないので、世界はいずれA国によって征服されてしまいます。

A国のように圧倒的に強く、他のすべての国を支配する勢力を持つ国を「覇権国」と呼びます。覇権国の成立を防ぐことは「国際政治の鉄則」であり、古代から現代までどんな地域でも重視される普遍的な原則です。

古代ギリシャの歴史家ポリュビオスも、「我々は、単一の国家がその明白な権利についてさえ争うことを誰もが恐れるほど圧倒的な力を持つようになることに決して貢献してはならない」と述べました。

では、覇権国の成立を国際社会はどのように防ぐのでしょうか? その方法は、「潜在覇権国」を封じ込めることです。潜在覇権国とは、将来的に覇権国になるかもしれないほど強い国です。前の例に戻ると、仮にA国が6の勢力を持っていれば潜在覇権国と見なされます。B国、C国、D国の勢力7でまだ対抗できるものの、そのまま強くなり続ければいずれ覇権国になるからです。

国際社会では、他の国々が協力して潜在覇権国の勢力を抑え込もうとします。こうした潜在覇権国を抑えるための集まりを「対抗連合」と呼びます。諸国は手を組んで、潜在覇権国が覇権国になる前にその勢力を止めようとするのです。

どんな社会でも、潜在覇権国を対抗連合が抑える現象は起こります。例えば、戦国時代の織田信長に対する武田・上杉・毛利の反信長連合。この場合、織田信長は日本を統一する可能性が最も高い「潜在覇権国」で、武田・上杉・毛利はそれを阻止する対抗連合です。

中国の春秋戦国時代にも、強大な秦に対して韓・魏・趙・燕・楚・斉の6か国が連携する動きが見られました。第一次・第二次世界大戦においてドイツを封じ込めたイギリス・フランス・ロシア(ソ連)の連合、その後の冷戦でソ連を封じ込めた西側陣営、また、近年の中国に対抗するための台湾・日本・アメリカ・フィリピンの連携も勢力均衡策の1つです。

あるいは、ビジネスにおいてある業界の1位の企業に対抗するために2位と3位の企業が協力する動きも勢力均衡の一種です。このように、勢力均衡は人間社会において平和を維持するための普遍的な原則です。

第二次大戦後、アインシュタインも提案していた「世界から戦争をなくすただひとつの解決策」とは?_4
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あの国の本当の思惑を見抜く 地政学
社會部部長
あの国の本当の思惑を見抜く 地政学
2025/1/24
1,980 円(税込)
336ページ
ISBN: 978-4763141880

地形的に見ると、アメリカもロシアも中国も弱い。
だから、戦争をやめられない。


近年、「世界情勢を理解したい」という需要が増えています。
ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・イスラエル戦争、中国の台湾・尖閣諸島・南シナ海での野心的行動など、ニュースで不安定な国際情勢にまつわる話題を見聞きしない日はありません。

国際政治を考える上で、まず見るべきものは何でしょうか?
歴史、文化、統計、報道——どれも重要です。
しかし、本書はそれが「地理」であると考えます。

ニュースを普段見ていると、外国首脳の発言や人々の意見ばかりが目に入ります。
それらを見ていると、世界情勢を動かしているのは「人間の意志」だとつい思いがちです。
しかし、人間の思考や行動は、私たちが思っている以上に地理に動かされています。
それも、気づかないうちに。

地理を基準に世界を眺めると、次のようなさまざまな事実が見えてきます。

●アメリカは広い海で隔てられるので「攻められづらい」国だが、同時に他国を「攻めづらい」国でもある
●ロシアはヨーロッパの大国と平らな地形で繋がっているせいで、領土を拡大し続けなければならない
●対立を深めるアメリカと中国は、実は国土や隣国との関係など、「似た者同士」である
●日本にとって朝鮮半島はユーラシア大陸との「橋」。朝鮮半島の安全を確保することは伝統的な地政学的課題

寒い場所では、港が流氷で閉ざされて、貿易ができません。
「国を守ろう」と思っても、地形が平坦だとかなり苦労します。
地理が「檻」だとすれば、国は「囚人」です。
囚人に何ができて、何ができないかを知るには、まず檻の形を知らなければならないのです。

本書は、地政学動画において平均再生回数150万回という圧倒的な支持を得る著者・社會部部長が、不変の地政学の法則を解説する1冊。
「海と陸」というシンプルな切り口を中心に、これまで世界で起きてきたことの真の理由を知り、今の世界で起きていることを「自分の頭で考えられるようになる」本です。

【目次より】
序章 今、地政学を学ぶ意義
第1章 アメリカ 強そうで弱い国
第2章 ロシア 平野に呪われた国
第3章 中国 海洋国家になろうとする大陸国家
第4章 日本 大陸国家になろうとした海洋国家
終章 地政学から学べること

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