それでも僕はアナログで漫画を描き続けていきたい
漫画をデジタルで描くことが普通になっていく中で僕が心配しているのは、画材の質が落ちていること、さらには画材そのものがなくなりつつあるということです。ずっと使ってきたお気に入りの絵の具は生産中止になっており、在庫を買い占めざるを得ない状況です。
たとえば青なら青で本物の色を出すためには高価な材料を使う必要があるので、採算がとれないと、粗悪な材料で代替されてしまったり、生産がストップしたりするのです。まだデジタルではアナログのような色は出せないので、今持っている在庫がなくなったら本当に困ってしまいます。
こういうことは僕だけがこだわっていて、読者は「漫画がおもしろければ、別に色の出方なんてどうでもいいよ」と気にしないかもしれません。
それでも僕はアナログで漫画を描き続けていきたいと思っています。今のところ自分で描いた方が速いということと、原画の存在感や手描きの絵のライブ感、描いたときの感動を味わいたいという気持ちが強いからです。
カラーを描くのは、正直面倒だし、締め切りも早まるので大変なのですが、さまざまな色をああでもない、こうでもないと実際に塗っていって、「お、こんなふうになるのか!」という新鮮な発見があるのがとても楽しいです。
その感覚は、料理をしていて「こうするとおいしいかな」「あれ、ちょっと何か違うな」「なんだか臭いぞ、この臭みはどうすれば取れるかな」などと試してみて、出来上がった一皿の意外な味に驚くのと似ているように思います。
しかし、そうやってこだわってカラーの絵を描いても、実際に印刷されたときにオリジナルと同じ色味が出るということはまずありません。しかも、人気がなくて雑誌の後ろの方に掲載されたりすると、印刷時にインクがかすれるなど、ますますひどい状態になってしまうこともあります。
そう考えると、「この隣に黄色を置いたらどうなるかな」「この色とこの色を混ぜたら、どういう感じになるかな」という工程には意味がないのかもしれません。
でも、僕はそれでもかまわないと思っています。表紙の絵を描くときは、「せっかく選んでもらったのだから、雑誌の売れ行きがよくなるような絵を描かないと」と力が入りますし、単行本でも「書店で平積みされたとき、隣に並んでいる本に負けたくない」と、一生懸命、表紙の絵を描きます。
何が「負け」かというのはともかく、いろいろな本が並んでいる中で「沈んでいる」ように見えるのは嫌なのです。