「……いま、女の子と付き合ってるんですよ」

まずは金銭的な動機で風俗の仕事を始め、そこでの行為にそれほど抵抗がないことに気づく。そのため無感覚で続けているうちに、徐々に「自分が必要とされている」との、承認欲求を満たす感情が侵食してきたのだろう。

大学3年の半ばからは、教員資格を取るための教育実習を受け、続いて就職活動に忙殺されて風俗の仕事を控えていたカオルは、就職が決まった大学4年の夏からオナクラで働くようになる。そこは個室内での〝手コキ〟によって、男性を射精に導く風俗店である。やはり彼女が〝気楽な仕事〟として選ぶのは風俗業だった。

そして大学卒業の直前である2月から、「SMに興味があって、いじめられるとどういう感じかなって思ったんです」と、処女でSMクラブでの仕事に至ったというのが、私がそれまでに表に出していた内容である。

だが、ここでも彼女について伏せている事柄があった。この件での取材が終わり、雑談になったところで、「なんか私、男の人に興奮しないんですよね」と口にした彼女が、言いにくそうにあることを切り出したのだ。

「……いま、女の子と付き合ってるんですよ」

予想もしない発言に驚いて相槌だけを打つと、カオルは続けた。

「こんな清純そうな人が風俗に?」性行為にこだわりのない風俗嬢が処女にこだわる理由…カラダを求められることで満たされる承認欲求_3
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「だから、もとからそんなに、男の人に対して性的に興奮したりしないのかもしれないですね」

#5に続く

写真/shutterstock

風俗嬢の事情 貧困、暴力、毒親、セックスレス―― 「限界」を抱えて、体を売る女性たち
風俗嬢の事情 貧困、暴力、毒親、セックスレス―― 「限界」を抱えて、体を売る女性たち
2024年12月20日発売
792円(税込)
文庫判/280ページ
ISBN: 978-4-08-744728-6

性暴力の記憶、毒親、貧困、セックスレス――それぞれの「限界」を抱えて、体を売る女性たち

【作家・桜木紫乃氏 推薦】
彼女たちには文体がある。
限界はいつだって表現(スタート)地点だ。

過去の傷を薄めるため……。
「してくれる」相手が欲しい……。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライター・小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

著者が20年以上にわたる風俗取材で出会った風俗嬢たちのライフヒストリーを通して、現代社会で女性たちが抱えている「生と性」の現実を浮き彫りにするノンフィクション。

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