向田邦子作品のすごさ
――今回、監督するにあたって、原作を読み返しましたか?
しました! 全部ハコ書き(シーンごとのあらましを書いたもの)に戻しました。そうするとちょっと辻褄に合わない人の動かし方をしているな、とかがわかってきました。
別に粗探しをしたわけじゃないんですけど、いま自分が演出するならシーンの順番をこう変えるなとか、そういうことに色々気を遣いましたね。ちょうど2年前です。お正月に原作を全部一回分解して、組み立て直したって感じです。
――組み立て直したことで、向田作品に対してどんな発見がありましたか。
それまでも読み直したり見直したりしましたけど、本気で勉強し直すことはなかったので、いい機会だから、もう一回ちゃんと向き合ってみたんです。
向田さんって、ハコ書きしないんですよ。頭からバーンと書いちゃう、っていう話は前から聞いてたんだけど、筆が走ってノってるところと、悩んだろうなと思われるところ、いろいろわかるから、それが勉強というかおもしろいなと思った。
あと、脚本によっては本当に緻密で全部セリフにしている。言い間違い、聞き間違い、言い直しまで、ちゃんと台詞に書いてあるんですよ。当時見たときは役者のアドリブだと思ってたので、ここまでやるのかと思いました。
――是枝さんの四姉妹ものというと『海街diary』があり、プレスリリースでは「阿修羅のごとく」と比べて「表と裏」と表現されていますが、これはどういうことですか?
両方とも四女はすずがやってるっていうぐらいかも……。四姉妹ものって谷崎潤一郎(『細雪』)とか『若草物語』とかいろいろあるけど、「阿修羅のごとく」はたぶん、四姉妹のダークなところを炙り出しているものだよね。
『海街』は場所も含めて、陰か陽だと陽のほうが強い。まあ、あれも死で始まって死で終わってるけど、すごく光に満ちた話だとすると、「阿修羅」は全部冬の話だし、話もドロドロしてるから、それで裏表って言ったのかもしれない。
でも、「阿修羅」が先にあったからね、裏が先なんだよ。