スマホを持たせなければ大丈夫?

日本では現状、子どもを含む若年層のデジタル性暴力について総合的な大規模調査は行われていませんが、断片的に発表されているものはあります。

まずは、内閣府男女共同参画局が若年層の性暴力被害について行った調査を紹介します。

「なんらかの性暴力被害を受けた」と回答した人を対象に、「最も深刻な/深刻だった性暴力被害」を尋ねたところ、最多は「言葉による性暴力」で38.8%、次いで「身体接触を伴う性暴力」で28.2%、そして「情報ツールを用いた性暴力」で16.3%でした。「情報ツールを用いた」とは、デジタル性暴力とほぼ同義とみてよいでしょう。この調査では、被害に遭ったときの年齢までは明らかになっていません(図4–1)。

米調査では7人に1人が子ども時代に「デジタル性暴力」を経験…「子どもにスマホを持たせなければ大丈夫」では済まない理由_3

警察庁による「子供の性被害」(ここでの「子供」は18歳未満)についての統計では、児童ポルノ事犯について詳しく見ることができます。児童ポルノというと、違法なAV(アダルトビデオ)やグラビア雑誌などの商業コンテンツを想像する人が多いかもしれませんが、実際は「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」「盗撮」が大部分を占めます。

2014年から2023年における児童ポルノ事犯は、全体では検挙件数・検挙人員・被害児童数ともに増減をくり返していますが、ここでは特に「被害態様別」を抜き出しました。これを見ると、「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」が最多で4割近く、次いで「盗撮」が約2割を占めています(図4–2)。

米調査では7人に1人が子ども時代に「デジタル性暴力」を経験…「子どもにスマホを持たせなければ大丈夫」では済まない理由_4
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大事なのは、統計に「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」とは「だまされたり、脅されたりして児童が自分の裸体を撮影させられた上、メール等で送らされる形態の被害をいう」と記してあることです。子どもがグルーミングされた結果、写真・動画を送るという流れが、しっかりと想定されています。

オンラインの性的虐待コンテンツの入手可能性を最小限に抑えることを目的に設立された非営利団体「インターネットウォッチ財団(IWF)」は、公開レポートや内部チームを通じて子どもの画像・動画を特定する活動をつづけています。同財団が検出した児童の性的画像のほとんどは、子どもたちが寝室で、ひとりで作成したものであると報告しています*5

子どものモバイル端末所有率は年々上がっており、スマホの所有率は小学校高学年で4割を超すともいわれます*6。子どもに持たせるかどうか、迷われている家庭も多いでしょう。学校や塾で必要だったり、親子間で連絡をとるにもスマホは便利だと感じていたり、家庭によって考え方はさまざまだとは思います。子どもの所有率は今後、増えることはあっても減ることはないでしょう。

では、デジタル性被害はスマホやタブレットといった端末が原因なのかというと、それも違います。機器を利用する「加害者」が起こしているのだということを忘れてはなりません。

それは、つまり、子どもにデジタル機器を持たせなければ被害に遭わないとはかぎらない、ということです。デジタル機器を持たせるにしても持たせないにしても、親や保護者はあらかじめ「加害者はそれを利用してどうするか」を考えておいたほうがいいように思います。ですから私は講演などで、「電子機器を禁じるのではなく、その使い方を学ぶことが大事」とお話ししています。

図/書籍『みんなで守る子ども性被害』より
写真/shutterstock


*1 Chauvire-Geib K, et al. Trauma Violence Abuse 2024;25(2):1335-1348.
*2  Finkelhor D, et al. JAMA Network Open 2022;5(10):e2234471.
*3 Lister VPM, et al. Sex abuse 2024;36(3):320-348.
*4 IT media NEWS 2023年5月18日配信「〝13歳少女〞のなりすましbotで、子供狙う大人の動向を検証ほとんどがWebカメラへ誘導」https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2305/18/news065.html
*5  Brown S, Key messages from research on child sexual abuse by adults in online contexts. 2023. https://www.csacentre.org.uk/research-resources/key-messages/key-messages-from-research-on-child-sexual-abuse-byadults-in-online-contexts/ (2024年10月8日最終閲覧)
*6 モバイル社会研究所サイト2024年1月29日配信「小中学生のスマホ所有率上昇調査開始から初めて小学校高学年で4割を超す」https://www.moba-ken.jp/project/children/kodomo20240129.html

小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害
今西 洋介
小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害
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四六判/280ページ
ISBN: 978-4-7976-7456-9


1日に1000人以上の子どもが性被害に遭っている――。(厚生労働省調査 令和2年度、推定)
小児科医「ふらいと先生」がエビデンスベースで伝える、
まだ知られていない小児性被害の「本当」と、すべての大人が子どもを守る方法。

旧ジャニーズ性加害問題などによって、世間の関心をますます集める子どもへの性暴力。
実際、性被害に遭う子どもは多いの? 少ないの? うちの子は大丈夫?
被害を受けた子は何か「サイン」を出すの? 心と体にどんな「傷」を負う?
結局、子どもを守ったり助けたりするには、どうすればいいの?
医療・育児インフルエンサー「ふらいと先生」として知られる小児科医がエビデンスにもとづき、
誤解も多い小児性被害の実態や、パパ・ママから先生まで大人のみんなができる「予防法」を、やさしく伝えます。

大人が小児性被害の「真実」を知れば、大切な子どもを守れる!
●厚生労働省は「1日1000人以上の子どもが性被害に遭う」と試算
●アメリカの研究では「未治療の性犯罪者1人が生み出す被害者は380人」
●男性100人のうち1人がペドフィリア(小児性愛障害)の可能性
●性被害を受けた子どもの男女比は1:2
●加害者は子どもの「知らない人」より「知っている人」のほうが多い
●被害経験のある子が生活習慣病や肥満になりやすい理由
●子どもにスマホを持たせると「デジタル性暴力」に遭うのか?
●「日本版DBS」だけでは小児性被害は防げない

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