バブル崩壊とコロナで需要低迷
そもそもハイヤーとは単なる移動手段ではなく、ワンランク上の快適な空間が最大の特徴だ。
一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会の資料によると、バブル崩壊前後の1991年平成3年の特別区・武三地区(東京都23区と武蔵野市・三鷹市を合わせた地域)の運送収入は約1290億円に達していた。
会社の役員が出社する際に自宅まで乗り付け、退勤するときも、足となる。会食があるならその間は飲食店の近場で待機し、ゴルフ場などへの移動にも使われている。
また、作家などVIPのおもてなしのために使用されたり、数多くの取材場所を回る必要がある新聞社の記者や、航空会社のパイロットたちにも利用されてきた。
例外なく高級車を使用し、運転手も専任となるため、料金は相応に高額だ。
大和自動車交通株式会社の担当者によると、1台を1年契約した場合、およそ792万円ほどになるという。
「好景気の時代には、航空会社のパイロットはもちろん、新聞社に就職して1年目の新人記者でさえ、取材のための移動に利用するのは珍しくありませんでした」(以下同、大和自動車交通株式会社担当者)
些細な移動でさえ高級感を求め、ハイヤーを気軽に利用できた状況は経済的な豊かさの象徴といえる。そのため日本経済の低迷に合わせて、ハイヤー業界は大きな影響を受けることとなった。
「バブル崩壊後は、多くの企業の財務状況が悪化する中、3K費(交通費、交際費、広告費)削減の流れの中で、企業からのハイヤーの受注が減少しました。さらに追い打ちをかけたのが、コロナ禍による出社減少です。コロナ禍後、契約数は伸びているのですが、最盛期ほどの水準には至っていない状況です」
前述の同資料によると、特別区・武三地区の令和2年の運送収入は約240億円で、最盛期の5分の1程度にまで落ち込んでいる。
だが、ハイヤー需要の低下が顕著の中、新たな需要をもたらすと期待されているのがインバウンドである。