三谷幸喜さんまでそう言うのか

しかし、三谷幸喜さんまであんなコメントをするとは意外だった。

「どういう風に復帰されるのかというのが気になる」だの「あんまり考えたくないが、(松本氏は)ちゃぶ台ひっくり返す人でもあるから、やめちゃうんじゃないか」だの、挙句は「どれだけ彼が現状に腹を立ててるか、ということになってくるのかなって気がしますよね」ときた。

真っ当な反応を期待してわざわざテレビを見ていた私は、思わず、はあ??? と声が出てしまった。

腹を立てるのだとしたら、飲み会に誘われて、いきなりスマホを没収されて、意にそぐわない性行為を強要された女性たちだ。松本人志に腹を立てる権利などない。脚本家であり演出家だから演者の立場を慮る方なのだと推測はしてみたけれど、あの発言には心底がっかりした。怒りを創作の源にできるのはその怒りが純粋なものだけだ。三谷幸喜さんは弱い立場の人への視線がある人だと思っていたのになあ。

「不快な思いをしたり、心を痛めた方がいるから記事になったのではないか」甘糟りり子が松本人志の謝罪を謝罪と思えない理由_2

媒体の中には、レギュラー番組への復帰だけではなく、なんと大阪万博のアンバサダーへの復帰も視野に入っているなどと書いているものもあった。多額の税金が投入され、海外からの関係者や来場者も多い万博である。そんな催しで、性加害の疑惑があり、自分から潔白を証明する機会を放棄した人物をアンバサターとして起用するなどということがあり得るのだろうか。なんでもかんでもグローバルスタンダードがいいとは思わないが、さすがにこれは恥ずかしい。こんな起用は先進国ではあり得ないはずだ。

「有名人との飲み会」と称して後輩たちに好みの女性たちを集めさせ(女性の好みをリストにまでして)、その中で気に入った女の子と自分が二人きりになるように仕向け、強引に性行為をする。性加害にあった女性が勇気を持って告発したら、「名誉毀損」と「損害賠償」で媒体を訴え、それでも勝ち目がないと踏んだら自分から訴えを取り下げ、被害女性がいないかのようなコメントをし、あたかも潔白が証明されたかのように報道してもらい、それをきっかけに芸能活動の復帰を画策する。不倫で干されたタレントもいるというのに、性加害の疑惑を晴らさないまま復帰をしようとしているのだ。

性加害を別の言葉でいうなら「レイプ」である。松本人志ではもう笑えない、一連の対応がダサ過ぎて落胆した、との声も多く読んだが、笑える笑えないダサいダサくない以前の問題である。

日本の芸能界、マスコミ業界、こんなやり方がまかり通ってしまって、本当にそれでいいの? ハーヴェイ・ワインスタインとジャニー喜多川の意見を聞いてみたいものだ。

文/甘糟りり子