「日中にやることが多すぎ」行事、担当外の授業…目に見えない仕事も
「そもそも、日中にやることが多すぎるんです」と広瀬さんは苦々しく語る。
「1週間6時間コマがある中で、10時間は授業を持たない“空き時間”とされています。その10時間で本来なら授業の準備をしたり、テストの採点をしたり、宿題を見たりします」
しかし、その10時間をすべて空き時間として使えることは少ないそうだ。
「問題のある生徒の家庭訪問をしたり、学校の治安が悪くなると教室や廊下の見回りをしたりすることもあります。空き時間がなくても授業の準備はしなくてはいけないので、家に持ち帰ることになります」
広瀬さんのような子育て中の先生は17時に一度家に帰り、それから仕事をする場合も多いのだという。担当科目の授業準備の他にも、道徳やその他の授業を持ち回りで任されることもあるのだとか。
「あとは、運動会や文化祭などの行事も大変です。行事の担当になると、先生同士で打ち合わせをするのですが、時間に余裕のある先生は談笑ばかりで、すごく長引くときもあります」
これらをすべて残業代に含めるという方針に、広瀬さんは違和感があるそうだ。
「年配の先生の中には、担当科目の授業だけをしていればよくて、準備もろくにせず職員室に座っているだけという人もいます。若手の先生に行事や持ち回りの授業が任せられて、しわ寄せがいくことも……。
最近ではタブレットが市から支給されたので、市のタブレット研修を学校代表で受けに行って、学んだ内容を自校の先生たちに教える準備に追われている先生の姿も見ます。他にも目に見えない仕事もたくさんありますよ。それらをどう残業として申請するんでしょうね?」
「お金よりも、仕事を減らして、人数を増やしてほしい」
ベテラン教師にも話を聞いてみた。五十嵐さん(仮名)は、関西の公立中学で学年主任をしている男性教員だ。
勤務歴17年を超えるベテランの彼が手を焼いているのは、学年主任としての生徒指導だという。担任の先生の手に負えない案件が、学年主任のもとにくるそうだ。
「『クラスのグループLINEで、うちの子が悪口を言われた。学校でなんとかしてくれ』というクレームを、親からよく受けます。僕たちは関与していないので、当事者同士でなんとかしてほしいのですが……。LINEやSNSに関することは前例も豊富にないので対応が難しいんですよ。最近では、子どもが急に休んで保護者から電話があり、その原因がSNSだったと発覚するケースがありました」(五十嵐さん、以下同)
さらには、残業時間に含めていいか微妙な「待ちの仕事」も多いのだという。
「本来なら17時以降は留守番電話サービスに接続するようになっていますが、その機能は一時的に切ることができるんです。『この親は夜しか繋がらない』と分かっている場合には、保護者からの電話を職員室で待つときもあります。
保護者対応に手を焼いて、管理者と保護者の間で板挟みになり、心を病んで休職をしてしまう先生もいます。先生の数はもとからギリギリでやっているので、休まれてしまうと、ますます回らなくなってしまう。そんな悪循環も、最近では増えつつあります」
五十嵐さんは家に帰り「今日は空きがなかった……」と、愚痴ることも多いのだとか。
今回の報道については、「正直言って、現場ではそんなことを考えている暇がないです。お金よりも、日中にやるべき仕事をもっと減らしてほしい。そのためにも人数を増やしてほしいですね」と語った。
――聖職とされる先生たちだが、彼らも人間だ。家庭を持つ者もいる。彼らが気持ちよく働けるように、現場に即した仕組みが作られることを願うばかりである。
取材・文/綾部まと