白票を投じる意味はあるのか
白票の有効性を示す事例としてたびたび挙げられる、神奈川県知事選挙(2023年4月投開票)を例に、具体的に考えてみよう。
現職・黒岩祐治氏は、新型コロナをインフルエンザ扱いしたことを始め、その政策によって県民の不満が高まっていたうえに、選挙期間中に過去の不倫スキャンダルも発覚。
多くの県民が落選を望んだものの、残念ながら有力な対立候補は皆無。結果、黒岩祐治氏は危なげなく再選をはたした。
そんな中、白票を含む無効票が前回の2.93%(8万8964票)から一気に6.91%(21万2482票)へ上昇。増加した12万票超は現職に対する不信任票ではないかと指摘された。
しかし、これが本当に黒岩祐治氏個人に対する不信任を意味するかは、白票を投じた一人一人に意図を聞かない限り分からない。
だが、当然ながら無記名投票という性質上、そのような検証は不可能。そう。結局のところ、白票が増えたからといって、政治家にとっては対立候補との票数が縮まる脅威には遠くおよばないのだ。
現に白票が増えた県知事選を経てから1年半が経過したが、神奈川県民である筆者から見て黒岩祐治氏の県民軽視の政策が改まったと感じたことは一切ない。
成功例に挙げられるほど多くの白票が集まった選挙ですら、成果を挙げられなかったのだから、「政治家への不満を示したい有権者」にとって白票はなんの意味も持たないことは明白だ。
一方で、「ある特定の層」にとって、白票は確かに意味を持つ。
白票(=無効票)が増えれば、必然的に有効票が減る。有効票が減れば、すでに一定の知名度を有している現職や、宗教・組合などの組織票に支えられている政治家が当選しやすくなる。この条件に合致するのは、与党(自民・公明)議員のほうが割合的に多いといえるだろう。
その意味で、つまり白票には「現政権や政治家への不満を示す」とは真逆の効果があるともいえる。本人は政治家への不満を示すために白票を投じたつもりでも、実際は自公政権の現状維持をアシストしてしまうかもしれないのだ。
ここ数年で特に顕著になっている円安・物価高・増税によって、ごく一部の富裕層を除いて生活が非常に苦しくなっている国民は多いだろう。飲食店を筆頭に、たとえ人気店であってもバタバタと廃業していく街の風景を見ると、もはや恐怖すら感じるのではないか。
こうした現状に不満があるならば、白票ではその不満は示せない。鼻をつまんででも誰か(現状に不満があるならば必然的に野党)に投票しなければ、現状はなにも変わらない。
文/犬飼淳