地盤沈下対策

また、大阪市と大阪IR株式会社が結んだ「事業用定期借地権設定契約書」の骨子案には、気になる記述がある。「地盤沈下対策」の項目に、次の一文が出てくる。

「市が本件土地に使用した埋立材の原因により、通常の想定を著しく上回る大規模な地盤の沈下又は陥没が生じ、これらに起因して通常予測され得る程度を超える地盤沈下対策等が必要と見込まれる場合、一定条件の下、市がその費用を負担」

大阪湾内にある関西国際空港が1994年9月の開業以降、地盤沈下への対策を取り続けていることは知られている。どの程度が「通常の想定」の地盤沈下なのかは記載を見つけられなかったが、大阪IRでも大阪市のさらなる負担が生じる懸念はぬぐえない。

関西国際空港
関西国際空港

悪しき前例もある。大阪・関西万博の会場建設費は2023年11月、当初想定の1.9倍となる最大2350億円になる案が認められた。建設費は国・府市・経済界の三者が、等分に負担する。

当初は1250億円だったのが、2020年に1850億円になり、さらに増額した。主催する「2025年日本国際博覧会協会」(万博協会)は、資材価格や労務単価などの物価上昇を理由にしているが、当初見込みの甘さを指摘されても仕方ない。

この土地をめぐっては、さらにもう1点、指摘事項がある。大阪市がIR事業者に貸す土地の賃料が不当に安く設定されたなどとして、2023年4月に住民10人が訴訟を起こした。

原告らは、大阪市が賃料算定を不動産鑑定業者4社に依頼したところ、3社が1平方メートルあたり月428円で一致したことを問題視。この値段になったのは、「不自然な一致で、著しく安価に設定された不当な鑑定だ」と不服を申し立てた。

報道によると、この月428円の算定にあたり、鑑定業者は「IR事業は国内の実績もなく、考慮することは適切ではない」と2019年夏、大阪市に説明したとされる。

しかし、カジノや高級ホテルの売上を年間5200億円も見込む事業の効果を、賃料算定に含めなくていいものなのか。大いに疑問が残るだけに、訴訟の行方を注視したい。