“経済力”以上に問われる“品格”
やはりというべきか、松平氏の「面談」という言葉に思わず反応した。
紹介者がいて、かつ十分な資力があっても面談を行うのだ。当然、面談となれば合否のようなものが判定されるわけだが、もし不合格の理由が品格だとしたら入居希望者は傷つきやしないか。そんなことを考えながら、入居の可否を決める基準について聞くと、松平氏はこう続けた。
「介護付き有料老人ホームの中でも、私どもは健常型といわれる非常に少ない種類に入ります。健常型にお入りできるのは、入居時点で身の回りのことがご自身でできるお元気な方です」
ただし、入居できるのは70歳からだという。また、70歳を超えていても既に介護サービスを受けている者は入居ができないそうだ。
さらに品格については、どういう基準なのか。
松平氏の話を総合すると、共同生活であるため「俺が俺が」というように、人の話を聞かないタイプには、「お客様にとって、窮屈な暮らしになりますよ」などと伝え、遠回しに断ることもあるようである。施設側の基準で品格の良し悪しを見定めているのだ。
だが、それも当然といえば当然。他の一見さんお断りの「高級店」だって同じようなものだろう。
むしろ不合格者から怒りを買わないように諦めてもらうテクニックを試行錯誤しているのかと思うと、その気苦労は想像に難くない。
サクラビア成城では、入居のきっかけもさまざまだ。大病をしたとか、身の回りのことを全て任せていた妻に先立たれたとか、あるいは周りの友人が高級老人ホームに入ったなどのライフイベントをきっかけに入居を決める者が約半数だという。
「そうしたライフイベントがあった方が、最初に資料請求をしていただいてからご入居されるまでの期間は、だいたい半年から1年くらいです。残りの方は、私どもとファーストコンタクトを取ってから、10年、15年、長い方になると20年くらいの期間を経てご入居いただきます。例えば、最初は50代、60代の頃に見に来られて、それ以降は季節のお便りを出すたびに見学に来られたりする。そうやって人間関係を作っていくわけですね。一方、お客様は長い目でこちらが入居に値する施設か検討されるわけです」
入居に値する施設か検討―。まるで高価な骨董品を値踏みするかのようだ。
文/甚野博則
写真/PhotoAC