より高額な最上階や角部屋が争奪戦に
そんな豪華客船のような施設が一度沈みかけたことは、あまり知られていない。経営が悪化していたのである。
その沈みかけた船に手を差し伸べたのがセコムと森ビルだ。両者は共同出資して新会社を立ち上げ、1996年にマンション業者から正式に経営権を取得。サクラビア成城は再びスタートを切った。バブル景気が崩壊してから約5年後のことである。また翌年には介護保険法が公布された年でもあった。
松平氏が言う。
「私は30年近くシニア向けビジネスに携わってきました。サクラビア成城のような場所がなぜ続けられるかというと、高い入居一時金をいただいているからです。高級と呼ばれる老人ホームは、だいたい5000万円くらいのレンジです。こういうビジネスはお客様の数が限られているわけですよね。部屋数かける入居一時金と月額費用が売り上げですから、規模が大きいほど実入りがいいわけです。ですので、よく聞かれるんです。『サクラビアさん建て増ししないの?』って」
確かに、近年大手ディベロッパーが手掛ける老人ホームは500室規模のものが多い。それは規模が大きいほど実入りがあるからであり、そうした利益で建物の修繕をし、運営費用に充てて事業を回していくことができるためだ。
裏を返すと、小規模かつ高額の入居一時金は、ひとたび空室が出ると大きな経営リスクを抱えることを意味している。サクラビア成城のように、入居一時金の平均が約2億円ともなれば、空室は経営面においてハイリスクになるともいえるだろう。
「年間で10名くらいの方がご逝去されているため、今は10室程度空いているという状況になっています」
実際にホームページを確認すると2023年12月末時点で、60平米前後の部屋が空室になっていると記載されていた。逆に、最上階の広い部屋や人気の角部屋などは既に満室だという。
松平氏の話で特に興味深かったのが、居住者の約30組が今より広い最上階の部屋や角部屋を希望しており、空室になるのを待っている状態が続いていることだ。
つまり、空室が出ているといっても、それは60平米前後の部屋が中心であり、100平米超えの部屋は既に入居している者同士で確保競争が起きているというのである。
常に上を目指すのは、裕福な高齢者の習性か、それとも優越感なのか。