ベルリッツの債権178億円を放棄したベネッセ

英会話教室を巡るダイナミックな動きはコロナ前から始まっていた。

2007年に経営破綻したNOVAは、投資会社である、いなよしキャピタルパートナーズの傘下となり、2013年にNOVAホールディングスとして生まれ変わった。

駅前留学の響きが懐かしいNOVA 写真/集英社オンライン編集部
駅前留学の響きが懐かしいNOVA 写真/集英社オンライン編集部

この会社は現在、Gaba(ガバ)、GEOS(ジオス)を傘下に収めたほか、2021年にはZenken(旧:全研本社)の「英会話リンゲージ」事業を取得している。

これは典型的なロールアップだ。

ロールアップとは投資ファンドがよく使う手法で、業界内でのシェア拡大や経営の効率化を図る目的で、同業他社を複数買収して企業価値を高めようというものだ。

また、NOVAホールディングスは、プロバスケットボールクラブ「広島ドラゴンフライズ」を買収。そして、親会社であるいなよしキャピタルパートナーズを通して、パーソナルトレーニングジムを運営するトゥエンティーフォーセブンをTOB(公開買付)で子会社化した。

NOVAホールディングスのロールアップと事業の多角化は、ジリ貧になる業界での生き残り策を示しているかのようだ。

俳優の伊勢谷友介を起用したテレビCMで一躍脚光を浴びたCOCO塾は、経営不振で大人向けレッスンをGabaに、子供向けを「COCO塾ジュニア」に再編する大改革を実施。

しかし、業績を上向かせることができずに、運営するニチイ学館は、2019年に「COCO塾ジュニア」の直営店173教室の閉鎖を決定した。しかも、これはコロナ禍に入る前の出来事である。

非上場化したベネッセを苦しませたのも、英会話教室だった。1993年に連結子会社化したベルリッツは、2018年度に47億円、2019年度に31億円の営業赤字を出していた。

ベルリッツ 写真/集英社オンライン編集部
ベルリッツ 写真/集英社オンライン編集部
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さらにコロナ禍で赤字額は70億円近くまで膨らんでしまったのだ。切り捨てるように、2022年にカナダの特別目的会社に売却。ベネッセは、ベルリッツに対する債権178億円を放棄した。

ニチイ学館、ベネッセにとって英会話教室事業は、鬼門になっていたのである。

円安が外国人講師の働くモチベーションを吸い取る

英会話教室は、講師が集まりづらくなっているという別の懸念材料もある。

近年、日本は急速に円安が進行したため、外国人にとって働くモチベーションが高まらない国の一つになっている。2009年から2014年に入る前は、ドル円が100円を下回ることが多かった。2024年は150円近辺で推移している。

よほど日本が好きでもないかぎり、わざわざ為替レートが低い国で稼ごうと考える外国人講師は少ないだろう。

さらに、日本人講師にとっても英会話教室の魅力は低下する可能性がある。

プログリットは、2023年9月から英語コンサルタントやカウンセラーなど、120名を対象に一律年50万円の給与引き上げを実施した。

コンサルタント職は2024年8月期に133人となり、前年から1.3倍に拡大している。コンサルタントの質がプログリットのビジネスモデルの要であり、優秀な人材を確保する有効手段であるため、今後も給与水準が高値圏で推移する可能性が高い。

プログリットのように、講師にとっても魅力的なサービスになりえないかぎり、語学教室の未来は明るくならないだろう。

取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock