「ボタン押したいんですけど…」工場見学開始で島田電機に殺到、30分で1年分のチケット完売
「息子がエレベーターに乗るとボタンを押したがって困っているんですけど、工場見学ってやってますか」
「OSEBA」開設のきっかけとなったのは2017年、会社宛てにかかってきた母親からの一本の電話だった。
当時、工場見学は実施していなかったものの、島田さんは親子を招き、直々に工場内を案内。工場のボタンを押したり、一緒に写真を撮ったり、親子は大喜び。その後も数件、「ボタン押したいんですけど…」という連絡が続いた。
「ボタンをテーマに工場見学を実施しよう」
そう思い立った島田さんは、1048個のボタンを集めた「1000のボタン」を製作し、工場内に設置。
2020年から工場見学の一環として実施したところ、ボタンを押したい人たちが島田電機に殺到。30分で1年間分の予約が埋まってしまうほどの人気ぶりだった。
翌年から3カ月ごとで応募を募り、抽選で月9~15組程度が見学できるようになったものの、「当選確率1% 日本一予約の取れない工場見学」となったことで、より多くの人に来場してもらおうと施設化に至ったのだった。
現在は、平日4日間で営業時間は午前10時から午後4時。ホームページから応募を受け付け、1日180人が来場できる。
来場客は子連れの親子がメインだが、外国人観光客のほか地元の保育園や障がい者施設からの団体客も訪れる。
「事業づくりはファンづくりだと思っています。だからこの施設をもっと充実させて、一般の人たちに喜んでもらいたいし、ボタンで社会をポジティブにしていきたいです」
こう熱く語る島田さんには、施設発展によって成し遂げたい夢がある。
「ボタンの魅力やものづくりの魅力を伝えると同時に、島田電機が大切にしている人中心の組織の在り方をもっと発信していきたいと思っています。
ボタンを押すってとってもアナログで単純ですけど、アナログのよさってめちゃくちゃあると思っていて。
うちの会社は社員同士で気軽に飲みに行ったり、送別会もしたり、昭和の元気だった会社の在り方をデザイン性やゲーム性、今っぽさを取り入れながら残している。
社員全員のやる気フレーズが描かれたやる気スイッチがあって、出社したときにそのボタンを押して、退社するとき消していくんですよ。
それに何の意味があるかは分からないけど、僕はそういうアナログのよさを信じてます。企業は人であって、人が幸せになるために会社がある。
今は働きすぎて疲弊している社会人が多い中で、島田電機が中心となって会社を好きで楽しんで働く人をもっと増やしていきたいんです」
島田電機の工場見学はそんな未来を切り拓くためのボタンのひとつなのだろう。
取材・文・撮影/木下未希