国政調査権でタブーに迫る

石井さんがそもそも特殊法人の調査を始めたのも、中小企業の建設会社を経営している、ある友人の話がきっかけだったといいます。

彼いわく、「住宅・都市整備公団(以下、住都公団)の営繕(建築物の造営と修繕)の工事に入札しているが、いつも決まって公団の子会社である日本総合住生活(株)が落札し契約してしまう。我々には圧力がかかってまったく仕事が取れない」と。

住都公団は、のちに石井さんが国会で追及する、国の特殊法人です。議員2年目。このころの石井さんは、まだ特殊法人に注目していませんでしたが、素朴な疑問を抱きます。

「税金で運営している特殊法人が、子会社を持っている?」

税金で私企業を作るということは、公金を私物化すること。いわば公金横領である。そう思った石井さんは、住都公団を管轄する建設省(現・国土交通省)に連絡し、事実を確認しました。担当者の話では、「子会社への出資は法律で認められている」といいます。

この法律は、特殊法人および所管の省庁が、自己正当化をするための「後付けの根拠法」に過ぎないのですが、石井さんは国会議員の権限である「国政調査権」を行使して、住都公団の出資額や子会社の資産、収益などの財務資料を提出するように求めました。

建設省側はのらりくらりの対応で、あれこれ言い訳をしては資料を出し渋りましたが、石井さんは執念深く調査を続け、

①住都公団が出資して作った株式会社が24社、出捐(寄付)して作った営利財団が6法人あること。

②そのうち5社分だけで2000億円の営業収入があり、公団からの天下り役人は、子会社全体で100人を超えていること。

③その中に前出の日本総合住生活(株)もあり、社長は建設省から、公団、子会社へと天下りを繰り返してきていること。

④同社の売上は年間1600億円で、同業の全国7100社中第2位。住都公団東京支社の発注契約のうち7割を占めていること(発注操作の疑い)。

などを解明。国会での追及へと踏み切ります。

その後、石井さんは、当時あった他の91の特殊法人、そして公益法人についても調査を開始し、発注操作、放漫経営、ファミリー企業への天下りなどを調べ上げました。また政治資金の調査を行なうことで、特殊法人全体における、国会議員の利権の縄張りも見えてきたといいます。

(画像1) 1996年、国政調査権をフルに活用して資料にあたり、現場にも足しげく通った石井(左より3人目) 写真提供:石井ターニャ氏
(画像1) 1996年、国政調査権をフルに活用して資料にあたり、現場にも足しげく通った石井(左より3人目) 写真提供:石井ターニャ氏
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このように膨大な調査データを積み上げていくことで、ソ連からの帰国以来、仮説として立てていた「官僚社会主義国家・日本」の実像が、具体的なものになっていったのでしょう。

そしてその膨大な調査は、仕事が取れない中小企業のいち経営者の「困りごと」がきっかけでした。弱い者の側に立った不正の追及、弱者の救済であり、民衆のための正義の行ないだったのです。

いつ電話しても、夜遅くまで議員会館の事務所で仕事をしていた石井さん。部屋の中は、つねに資料が山積みで、どこになにがあるのかは本人にしかわかりませんでしたが、すべての資料が、「官制経済システム」のパズルのピースだったのでしょう。

石井さんが収集していた資料は段ボール箱63個に及び、今も全貌が解き明かされるのを待っています。