ハマスの影響力はむしろ増していく
イスラエル軍の殺戮と破壊は連日、世界に発信されており、いったん、戦闘が終われば、世界に20億人いるイスラム教徒の間の国際的なネットワークを通して、慈善援助がガザに集まるだろう。
父親を失ったり、家を失ったりした子供たちや家族への支援、病院や貧困家庭への援助はイスラム教徒の義務であり、イスラムの喜捨として、世界のモスクを通して、あるいはパレスチナのハマス系社会慈善団体を通してガザの人々に渡る。
それとは別に、ハマスの政治部門や軍事部門であるカッサーム軍団への資金援助も、膨大な額が集まるだろう。2014年7月から8月に50日間続いたイスラエルの攻撃でガザでは2251人が死に、10万戸近い住宅が被害を受けた。
しかし、その後ロケット・ミサイルの開発や現地生産が加速され、一方で地下に500キロメートル以上の戦闘用トンネルも掘られた。それだけの資金がハマスの軍事部門に集まったということである。
ハマス指導部が公言したように、ハマスは社会組織への援助を流用する必要はないのだ。ただし、政治・軍事部門に集まる資金は民衆を助けるためには使われない。その資金すべてをイスラエルとの「聖戦」のために使うというのが原則だ。それを認めているのが、占領との戦いをハマスに託しているパレスチナ民衆の意識であろう。
激しいイスラエルの攻撃の後も、ハマスがパレスチナ人の多数に支持され、アラブ世界の民衆からの支援、さらに世界のイスラム教徒の支援を受けて、より強大となるという見通しは、多くの日本人にとっては想像もつかないことかもしれない。だが、ハマスとパレスチナ社会、イスラム世界の関係を考えれば不思議なことではない。
2024年のガザは年齢中央値19.5歳の若い社会であり、ガザ戦争で家族や兄弟を殺された子供たちはすぐに銃を持てる若者となり、復讐のためにハマスの戦闘員に志願するだろう。
ハマスは弱体化するどころか、パレスチナ社会での影響力をさらに増すことになると私は見ている。
イスラエルのネタニヤフ首相は「ハマス壊滅」を掲げているが、イスラエル軍の報道官さえ「ハマスの壊滅は不可能」とメディアに発言するようになった。ガザ戦争が終われば、イスラエルの占領と戦わない自治政府を主導するファタハに代わって、ハマスがパレスチナ人の多数の支持を得て、かつて武装闘争をしていた時のPLOのような存在になるだろう。
一方で米国、英独仏の欧州主要国、そして日本も、政府のレベルでは、ハマスを「テロ組織」としている。しかし、ハマスの政治目標は、「イスラエルの破壊」ではなく、パレスチナの民衆が求める「イスラエルの占領終結」である。ハマスを排除する限り、占領下で苦しむパレスチナ人と国際社会の乖離は大きくなる。今後、日本や日本人がパレスチナ問題と関わろうとすれば、ハマスについて知ることから始めるしかない。
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