「日本も『カミカゼ作戦』をとったではないか」
私は自爆攻撃の取材で、ハマスの精神的指導者アフマド・ヤシーンにインタビューした。2001年8月25日のことである。ヤシーンは事務所兼自宅で数人の側近に伴われて、書斎のような部屋で車いすに座っていた。低いかすれ声で絞り出すように発音した。
――殉教作戦とは何か。
ヤシーン(以下同) 侵略者に対する抵抗の一形態である。占領下にある民衆にはあらゆる手段で抵抗する権利があるが、我々にはロケットも戦車もF16(戦闘機)もない。殉教作戦はイスラエル軍の攻撃を阻止するために、我々が自らの身体を犠牲にして対抗するものである。
――背後にある思想は。
それを日本人が聞くのか。日本人は米軍に対して自分を犠牲にするカミカゼ作戦をとったではないか。占領され、日々、家族や同胞を殺されている人間として、対抗できる武器を持たない場合に、土地や民衆を守るために殉教作戦を行うことはイスラムでも認められている。
――宗教的な裏付けは。
コーランの『悔い改めの章』には、神の道のために生命と財産とを投げうって戦った者は天国に行く、とある。
――イスラムは自殺を禁止しているが。
我々は自殺ではなく、殉教攻撃と言う。自殺は人生の困難から逃避する行為であり、神は禁じている。一方、殉教は信仰を持つ者が人の威厳を保ち、神のために自らの身体を犠牲にすることだ。
――なぜイスラエルの民間人を殺すのか。
我々が標的にしているのは、イスラエル占領軍であり、兵士であり、入植者だ。イスラムは無実の民間人を殺すことを禁じている。我々は民間人を標的にはしない。しかし、その場の状況によって、殉教者がイスラエル兵士を標的とした時に、近くに民間人がいて巻き添えになることがあるかもしれない。
――民間人の殺害を止めようとしないのか。
多くの民間人を殺しているのは、イスラエル軍の方だ。止めるためには停戦が必要だ。私は3年前にイスラエルに停戦を提唱した。しかし、イスラエルは拒否した。我々はイスラエルの破壊を求めてはいない。イスラエルが私たちの土地から撤退して、私たちの土地と家を返せば、平和があると言っている。
ヤシーンが言った停戦の提案というのは、アンマンでのモサドによるハーリド・メシャアルの暗殺未遂の後、イスラエルの刑務所から解放されてガザに戻ったヤシーンが「イスラエルがパレスチナ市民への攻撃を止め、土地の接収や家屋破壊を止め、イスラエルが拘束しているパレスチナ人政治犯を釈放するならば、ハマスは殉教/自爆攻撃を停止する」と提案したことを指す。
また、1999年10月にイッズディン・カッサーム軍団が同様の提案をして、特に入植地活動の停止や入植者によるパレスチナ人への攻撃を止めることを条件に殉教/自爆攻撃の停止を提案したが、いずれもイスラエル側からの反応はなかった。
ヤシーンは私のインタビューから2年7か月後の2004年3月、イスラエル軍武装ヘリコプターのミサイル攻撃で暗殺された。ハマスの中で、政治部門と軍事部門の両方に影響力を持ち得るのはヤシーンだけだった。ヤシーンに殉教作戦について質問した時に「日本人は米軍に対してカミカゼ作戦をとった」と切り返されて驚いたことを覚えている。