領空侵犯を受けたなかで日中友好議員連盟が訪中
2回の落書き事件などは「単純粗暴犯」ともいえるが、8月の落書きはさらなる余波を誘発した。
「この落書き事件を伝えた8月19日午後のNHKの短波ラジオと衛星ラジオ、ラジオ第2放送の中国ニュースで、中国籍の40代の外部スタッフが原稿にはない発言をしました。NHKの説明では、落書きのニュースで、原稿にはない『「軍国主義」「死ね」などの抗議の言葉が書かれていた』との言葉を加えて伝えました。
さらにこのニュースの後に『魚釣島と付属の島は古来からの中国の領土です。NHKの歴史修正主義とプロフェッショナルではない業務に抗議します』という中国語の発言と、さらに『南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな』との英語の発言を続けました」(社会部記者)
釣魚島とは沖縄県尖閣諸島の中国での呼称だ。NHKは8月22日に「日本政府の公式見解とは異なる発言」であり「NHKが、放送法で定められた担うべき責務を適切に果たせなかったという、極めて深刻な事態であり、重く受け止めています。深くお詫び申し上げます」と謝罪を表明したが、責任問題が本格化するのはこれからとみられる。
この中国籍の外部スタッフはNHKの関連団体と業務委託契約を結び、22年も前の2002年からニュース原稿の中国語への翻訳や読み上げの業務を行なってきた人物。
董容疑者や8月の落書き男のように、失うものがない日本から中国へ逃げ帰ればいいと考えるような立場ではなく、長年従事したNHKの仕事を失うことを承知したうえで腹をくくって発言したことになる。
NHKは損害賠償請求や刑事告訴も検討しているというが、実効性があるかは疑わしい。
日中間では、8月26日に中国人民解放軍の「Y-9」情報収集機が長崎県五島市の男女群島沖の日本領空を侵犯した。
「中国による領空侵犯は初めてで、日本への軍事的圧力を一段階高めた形だ。中国外務省が『恥ずかしい真似はやめろ』と自国民に警告しても、同省よりはるかに強い力を持つ軍が日本に圧力を強めている姿を示せば、国民はそれが習近平政権の意志だと受け止めるでしょう」と国際部デスクは話す。
ところが領空侵犯された側の日本からは、翌27日に二階俊博・自民党元幹事長を会長とする超党派の日中友好議員連盟の一行が2019年以来となる訪中を始めている。29日までの中国滞在中に中国外交トップの王毅(おう・き)共産党政治局員兼外相に会う計画を立て、習近平国家主席との面談も希望し、日中間の懸案解決を模索するとしている。
だが、領空侵犯を受けた側の国会議員の集団が、直後に相手国を訪問することがどういうメッセージを送ることになるのか、彼らは理解しているのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班