化学物質過敏症かも…と思ったら
実際に患者を診ていると、化学物質との闘いをひたすらやり続けている人ほど治りが悪い印象を受けるという。
これには反論する患者も少なくないと思われるが、渡井医師は「患者との信頼関係が成り立ってから」と前置きしたうえで、「化学物質との闘いは、あるところまでで制限して、気にしすぎない生活を送ってみるのも一つの手かもしれません」と、アドバイスしている。
化学物質過敏症は血液検査などの具体的な数値による診断基準がなく、診断法としては問診が主体だ。このため、まずは化学物質過敏症以外の他疾患を除外することが重要とされる。
そのうえで、化学物質過敏症患者を診た経験がない医師には難しいが、経験のある医師なら5分ほど話を聞けば大方診断がくだせるという。
受診方法としては、まずは身近な病院のアレルギー科、咳などの症状が出ているなら呼吸器内科も対象となる。そこで化学物質過敏症はアレルギーとは異なる疾患なので、「アレルギーなのか、そうではないのか」を判断してもらうことが第一段階として重要だ。
渡井医師はこのほど『化学物質過敏症とは何か』(集英社新書)を上梓し、この病気の詳細を記した。「患者への理解を深めるとともに、アレルギー科以外の専門の診療科との連携も必須となるため、医療従事者にもより関心を寄せてもらいたい」と話す。
出版後の反響は小さくなく、患者の家族から「やっと化学物質過敏症という病気の理解ができたました」と、感想をもらったという。
「アレルギー科医としてこの病に精通し、確実な治療につなげていきたい。そして、このようなやっかいな病を引き起こす原因の一部が脳へのストレスだとすれば、過敏症の予防のために、ストレスのかからない、ストレスをかけない生活をみんなで考える。そんなことも必要なのかもしれないなと感じています」
取材・文・撮影/藤井利香
編集/一ノ瀬 伸