しぼられつつある「ナゾの病」のカラクリ

では、直接の原因として何が考えられるのか。その答えを導き出そうとした国内外の研究結果をまとめると、一つの有力な仮説が出ているという。基礎医学的な研究結果のみならず、実際に診療にあたる医師の治療経験を併せてみても、ここに来てかなり確証の高いものとなっている。

「化学物質過敏症は、外の環境からのさまざまな刺激に対して脳が敏感に関与する、脳過敏(中枢性感作)な疾患であることがわかってきました。わかりやすくいえば、気管支喘息は気管支が過敏な疾患、アトピー性皮膚炎は皮膚が過敏な疾患、化学物質過敏症は脳が過敏な疾患ということになります。

脳が関与していると思われる疾患を中枢性感作症候群と呼び、同じ概念と考えられる疾患としては片頭痛、慢性疲労症候群、線維筋痛症などがあります。これらに対し、脳の敏感さを抑えてあげられるような薬の投与ができないか。そして、それが症状を軽くし、本当にこの病で困っている患者を救う有効な方法なのではないかと考えられています」

画像はイメージ photo/Shutterstock
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過剰に反応する化学物質をある程度避けることは必要だが、そこにポイントを置くのでなく、模索しているのは脳や神経にアプローチする治療法である。

「ごく簡単な例ですが、スギ花粉症の人に花粉がバンバン飛んでいる映像を見せると体が自然に反応し、鼻水が出たりする。確かにスギ花粉が悪さをしてアレルギーを引き起こしてはいますが、こうした現象は脳からきている部分も多分に関与していて、原因には大きく分けて2通りが考えられるのです。

局所麻酔薬アレルギー疑いの患者さんを調べたときも、検査で単なる生理食塩水を投与したところ、局所麻酔薬を投与されたときと同じような症状を訴えた例もあり、アレルギーや過敏症では脳が関与する、いわゆる“気のせい”と言える部分もあながち否定できない。まだ仮説段階ながら、こうした感覚や脳の問題が化学物質過敏症では大きいのではないかと考えています」