新書『応仁の乱』が〝知ってるつもり消費〞でヒット

思い出消費の派生形で、ヒットが望める手段は他にもある。その一つが、何となく概要は知っているが、詳しくは理解していないテーマについて、深く掘り下げて提供する「知ってるつもり消費」だ。

『知ってるつもり⁈』とは、関口宏が司会を務め、日本テレビで2002年まで13年間にわたり放送された、言わずと知れた教養番組だ。毎回1人の著名な人物を取り上げ、知られざる生涯について詳しく紹介する。

それと似たような構図で、表面的な知識はあるが、内情を深く把握していないテーマを扱った書籍の人気に火が付く現象が、高齢者マーケティングで巻き起こっている。

新書『応仁の乱』(中公新書)
新書『応仁の乱』(中公新書)

その一つのケーススタディーが、2016年に発刊された新書『応仁の乱』(中公新書)だ。室町時代中期に起こり、戦国時代へと移るきっかけとなった内乱で、知名度はあるが、その歴史的背景についてよく知っている人は少ない。

歴史に詳しい読者向けに書いた本だったが、一般の知ってるつもり消費を刺激し、歴史書としては異例の約50万部を売り上げるベストセラーとなった。

2014年から2019年まで「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で連載され、巨人の一時代を築いたダブルエースの江川卓と西本聖の相克を描いた実録まんが『江川と西本』も知ってるつもり消費の典型だ。

2017年、テレビ朝日の人気バラエティー番組『アメトーーク!』で司会の蛍原徹が紹介すると、大ブレークして版を重ねた。現在のシニア世代は、「巨人・大鵬・卵焼き」で育った団塊の世代を含め、ジャイアンツ・ファンが多い。

江川と西本のことは当然知っているが、背景までは認識していない。その上っ面の知識をうまく突き、消費に結実させた。シニア世代は人口ボリュームが大きいため、ひとたび火が付くとこうした爆発的なヒットにつながりやすい。